それは「精霊飲み」か「悪魔飲み」か? 飲酒を豊かにする方法

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先月末、東京の友人がニースに遊びに来ました。この時期のニースは気候も食も最高で、美味しいもの好きの彼女は、水を得た魚のように楽しんでいました。

働き方改革の影響か、日本でも「夏休み=お盆休み」という企業ばかりでなくなり、ある程度好きなときに取れるという人も増えているようです。皆さんもこの夏、しっかりバカンスを楽しんだでしょうか? 

ヨーロッパを見ていると、バカンスを山で過ごすか海で過ごすかは人それぞれですが、面白いことに、その滞在先の周りには必ずと言っていいほど地酒、つまりワインがあるように思います。そして、バカンス中に気に入ったワインを買い込み、また家で楽しんだり、友達や家族にお土産として渡したりもします。

土地の産物と書いて土産と言いますが、その中には土地の文化や歴史も、旅の思い出もいっぱい詰まっていると思うと、やはりお土産は大事だなと思います。


3月に訪問したプロヴァンスの伝説的なワイナリー「Domaine de Trévallon」

精霊飲みか、悪魔飲みか?

以前シチリアを旅行した時、あまりにもワインが美味しく、毎日楽しく飲んでいたのですが、ふとした瞬間に、ワインについて考えてみました。そもそもこのワインのアルコールとは……?

調べてみると、アルコール(alcohol)の語源については正確な起源が判明しているわけではないものの、「al-」がアラビア語の定冠詞(英語のtheに相当する)であることから、アラビア語に由来すると考えられています。中世ヨーロッパ期、イスラム社会の錬金術を大衆向けに伝える翻訳者たちによって、蒸留技法とともに、その蒸留物として紹介されました。

実はもう一説あり、個人的にはその説が面白いなと思っています。それは、イスラム教の経典のコーランの37:47節にある「al-ghawl」が由来であるというもの。「al-ghawl」の原義は、精霊(spirit)や魔人(demon)で、「ワインの性質を与えるもの」という意味。つまり、二面性があるということです。

確かに、ワインの作られた土地の情景を知って飲んでいると、自然の恵みに癒され「精霊飲み」ができる一方で、アルコールの精製された場所や原料のある景色を知らずに飲んでいると、「魔人飲み」してしまうような気がします。アルコールに溺れるという感じでしょうか。

とはいえ、僕はワインは生産地は多く回りましたが、ビールに関していうと、生産現場にはほぼ行ったことはありません。すると、「とりあえずのビール」で飲む一杯は、一種のデーモン飲みかなって思います。そして、世の中のほとんどの人はデーモン飲みである気がしています。悪いというわけでなく。
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文=松嶋啓介 写真=Getty Images

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