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2019.10.10

国内NO.1の美術館「SNSアカウント」は、いかにして生まれたか?

塩田千春 《不確かな旅》 2016/2019年 Courtesy: Blain|Southern, London/Berlin/New York 展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年 撮影:Sunhi Mang


森美術館の来場者は20代と10代が最も多い

結果として、昨年の「レアンドロ・エルリッヒ展」では2018年度の美術展覧会入場者数1位を獲得(美術手帖調べ)。2位の「建築の日本展」も森美術館の展示だ。SNSを通して、来場者数の大幅増に貢献したのだ。

「当館の来場者は、20代が一番多く、次に10代、その後に30代が続きます。現代美術という展示の特性もありますが、それにしても若い人が多いと思います。来場者のアンケートでも、来場のきっかけはほとんどがインターネットで、友人・知人のSNSを見てという人が最も多い。これが若者を呼び込めている理由だと思います。

とはいえ、美術館は数カ月に一度展示が変わるので、コンテンツもお客様もガラッと変わってしまう。それまで積み重ねてきた発信もほぼゼロに帰すわけです。

そこの難しさはずっとありますが、とにかく、これまでの展覧会でファンになってくれたお客様に加えて、新しいお客様に来てもらえるように頑張っています」

SNSによるここまでのマーケティングは、他に類を見ないだろう。洞田貫は、次に何を目指すのだろうか。

「あえて数字を上げるなら、SNSの総フォロワー数を100万人に乗せることでしょうか。でも、海外の美術館、例えばニューヨーク近代美術館は約460万人と、もう桁が違う。そこで張り合っても仕方ないのかなと考えています。

なので、むしろ他の美術館の担当者の方に、SNSを効果的に運用することの重要性を知ってほしいと思っています。そのために書いた本が『シェアする美術』(翔泳社)です。

美術館の世界では、どうもSNSを下に見ているというか、高尚な芸術を取り扱う者がそんな俗世のものに振り回されていいのかというような意識が感じられることがあるんです。でも、そんなことはありません。刺激的な文章や写真を上げるだけがSNSではない。

誠実に、情熱を持って発信し続ければ、これまで美術館に来なかった層や若い人たちに必ず伝わります。そうして、美術館に行くということがもっと多くの人にとって日常的な行為になればいい。そう思います」


どうだぬき・しんいちろう◎1979年生まれ、東京都出身。2006年森ビル株式会社入社。六本木ヒルズ展望台、森アーツセンターギャラリーの企画・運営、広報などを経て、現在は森美術館マーケティンググループに所属。著書『シェアする美術 森美術館SNSマーケティング戦略』(翔泳社)

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文=衣谷康 写真提供=森美術館

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