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2019.10.10

国内NO.1の美術館「SNSアカウント」は、いかにして生まれたか?

塩田千春 《不確かな旅》 2016/2019年 Courtesy: Blain|Southern, London/Berlin/New York 展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年 撮影:Sunhi Mang

企業もSNSの公式アカウントを運用することが一般になったいま、各社の「中の人」から注目を集めるのが、東京・六本木の森美術館だ。

どんな策を講じて、国内でもっともフォロワー数の多い美術館のアカウントになったのか──。

Forbes JAPANでは、9月25日発売の本誌で、 「WHO IS THE TRUE INFLUENCER?」(真のインフルエンサーとは何だ?)と銘打ち、 トップインフルエンサー50人を選出。彼ら、彼女らの言葉やアドバイザリーボードたちの論考から、 インフルエンサーなる現象を多角的に描く。



「TOP INFLUENCERS 50」に選出された、森美術館のSNS担当者に話を聞いた。


丁寧に、誠実に頑張るのが一番──。

森美術館のSNS担当者として、フォロワー数を4年間で4倍にも引き上げた洞田貫晋一朗は、SNS運用の秘訣をこう語る。

「ツイッターでリツイートをしてくれたら抽選で何名様に何十万円をプレゼント、というプロモーションをする企業もありますが、なんとかフォロワー数を増やしたいのが見え見えで、こちらまで少し恥ずかしい気持ちになってしまいます。そういう安直なことをすると、短期的には数字が上がるかもしれませんが、長期的なファン獲得にはつながらない。

また、SNS運用をアウトソースする会社もありますが、それでは数字が絶対的な指標になる。運用会社も数字を上げることだけに躍起になり、本質となるファンとの関係が二の次になってしまうのではないでしょうか。

デジタルのコミュニケーションだからこそ、数字に踊らされずに、ウソをつかず見栄を張らず、誠実に、地道にやることが何より大切だと考えています」

洞田貫が森美術館のSNSの担当を前任者から引き継いだのは2015年のこと。

それまでツイッターとフェイスブックのアカウント数は、合わせて10万人程度だった(インスタグラムは着任後に開設)。それを、三つ合わせて45万人ほどにまで拡大させた。


洞田貫晋一朗(どうだぬき・しんいちろう)

しかし洞田貫はもともと森アーツセンターギャラリーや六本木ヒルズ展望台東京シティビューの企画・運営や広報などを担当しており、SNSに関する特別なノウハウや知識を持っていたわけではなかった。

「フェイスブックなどは個人的にやっていましたが、はっきり言ってズブの素人。そんな状況でいきなり美術館のSNSを任せられたので、本当に手探りでのスタートでした。

前任者のやり方も踏襲しつつ、インスタも開設してみよう、ハッシュタグも活用してみよう、という具合に、少しずつ工夫することから始めました。

当館はあくまで企画展が中心の美術館であって、展示している作品はほとんどが借用品です。だから、なんでもかんでも面白そうなことを発信してみようと好き勝手なことはできない。

たまに『中の人』が自由に自虐的な発信をしたりして、話題になることがありますが、美術館のアカウントではそういうことは難しいのです」
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文=衣谷康 写真提供=森美術館

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