シアトルオフィスは開設後4年で現在は80名以上が在籍し、彼の直属の部下だけでも10名以上、米国と中国の両チームを統括しながら、彼らのチームはまさにボーダレスに活躍している。
米国メディアの本拠地は今もニューヨークが多いが、「昨今は立地によるデメリットはほぼない」と彼は言い切る。現に深セン在住のPR担当者が、進化したAnkerの独自技術「Power IQ 3.0」を搭載した新製品のリリースをニューヨークで行った時も大好評だった。彼らの努力と人柄から、メディア側の公平な評価を得ているのだろう。
米国チームと中国チームとまとめる難しさをエリックに質問したところ、こんなふうに答えてくれた。
「基本的なカルチャーに違いがあると思う。それは米国と中国のみならず、日本とも違うだろう。例えば、中国では公私共の家族的な関係を求める傾向があるけれど、米国側はお互いのプライベートを尊重するために距離感を保とうとする。両方の良さがあるのでミックスさせながらチームづくりを楽しむようにしている、それも面白みだね。
僕の家族も中国をはじめアジアが大好きなんだ。子供達と一緒に深センに6カ月以上住んだこともある。そんな機会も提供してくれることがAnkerで働く魅力の1つだし、違いを尊重しながら、企業として共通の文化を築きあげていくことも、僕らならではのエキサイティングな挑戦でもあるんだ」
なるほど、こうして企業文化がグローバル全体で共有され、また多様性が増すごとにそれがアップグレードされているのだと感じた。
新卒でもチャンスが
ここで、彼らの原点である代表製品、USB急速充電器に立ち戻ってみよう。
正直言えば、この取材をするまで、私は充電器に革新的技術が詰まっていることを知らなかった。だが、いまは彼らの「小さくて大きなイノベーション」の意義と、その挑戦の難しさがわかってきた。
その代表例である最新製品「Anker PowerPort Atom PD 1」のプロダクトマネージャーであるランバート・リーに開発秘話を聞かせてもらった。
この開発の先に目指すのは、全てのモバイル機器の充電を1台の充電器で完結できるようにするということだという。今後モバイル機器毎のACアダプターは不要になり、ノートパソコン含めた全てのデバイスがたった1台の充電器でチャージできるようになる、つまり最速の充電かつ快適な生活の実現だ。
そのためには「より大きな電力をより小さな形で持ち運ぶ技術革新」が必要不可欠だ。これが実に困難だったが、彼らは世界で最初に実現した。最新の給電規格であるUSB Power Deliveryは、小型扇風機もノートPCも充分に充電できる最大100Wというパワフルな給電能力を持つ。
しかし、それだけの電力を供給する際、発熱が問題になる。Ankerは充電効率を高めることで、その発熱を抑えるために窒化ガリウムというパワー半導体素材を使用した充電器を世界に先駆けて発表した。