人類がとことん「幸せ」を追求し続けた先に待ち受ける、意外な未来とは?『サピエンス全史』の訳者 柴田裕之に聴く(対談第3回)

柴田裕之


民主主義の限界を迎え、「魂」の時代がやってくる

武田:こうした進化の結果、権力は人間から離れ、民主主義が限界を迎えるのかもしれませんね。

一般の有権者は、民主主義のメカニズムはもう自分たちに権限を与えてくれないと感じ始めている。世界は至る所で変化しているが、彼らはなぜ、どのように変化しているかわかっていない。権力は彼らから離れていっているが、どこへ行ったのかは定かでない。イギリスでは、有権者は権力はEUに移ったかもしれないと思っているので、「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」に賛成票を投ずる。アメリカでは有権者は既成の体制が権力をすべて独占していると思っているので、バーニー・サンダースやドナルド・トランプのような反体制の候補を支持する。だが、権力がみなどこへ行ったか誰にもわからないというのが悲しい真実なのだ。イギリスがEUを離れても、トランプがホワイトハウスを引き継いでも、権力は一般の有権者のもとには絶対に戻らない(ホモ・デウス・下・P218)

武田:『ホモ・デウス』の最後では、“テクノ人間至上主義”について書かれていました。キリスト教ほか、一神教を信じる人々には魂があり、それは他の動物と一線を画す私たちの特徴だと述べています。アメリカの人権宣言もフランス革命も、人間には、それぞれ魂があり、自由意志があることが前提で作られており、そこからコミュニティが生まれる、と。

柴田:一神教の途中からそういう発想が盛り込まれてきて、それが主流になりました。人間は、動物の中でも特別な存在として、魂を持っているという考え方が根底にあります。

武田:しかし、現代の解剖学をもってしても、いまだ魂は見つかっていません。

柴田:行動経済学ではすでに、人間は自由意志を持っているかどうかに対して、疑問が呈されています。かつ、テクノロジーの進歩によって、魂は重要ではないとも考えられているのです。

データ至上主義は、人間の経験をデータのパターンと同等と見なすことによって、私たちの権威や意味の主要な源泉を切り崩し、一八世紀以来見られなかったような、途方もない規模の宗教革命の到来を告げる。ロックやヒュームやヴォルテールの時代に、人間至上主義者は「神は人間の想像力の産物だ」と主張した。今度はデータ至上主義が人間至上主義者に向かって同じようなことを言う。「そうです。神は人間の想像力の産物ですが、人間の想像力そのものは、生化学的なアルゴリズムの産物にすぎません。18世紀には、人間至上主義が世界観を神中心から人間中心に変えることで、神を主役から外した。21世紀には、データ至上主義が世界観を人間中心からデータ中心に変えることで、人間を主役から外すかもしれない(ホモ・デウス・下・P236)

武田:私たちが自由意志と思っていたものは、単なるシンプルでパワフルなアルゴリズムだとハラリさんは言っています。その結果、コンピューター工学のアルゴリズムとの違いを立証するのは、極めて困難になりました。

柴田:コンピューターと比べて人間は優れていると言い切れる根拠が、ないのです。
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文=武田 隆

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