ビジネス

2019.10.15

マーク・アンドリーセンが語る、「炎上型VC」からの変身

マーク・アンドリーセン(写真=イーサン・パインズ)


「VCという立場を捨てる」次の一手

暗号通貨に話を進めよう。アンドリーセン・ホロウィッツは昨年、この領域向けに3.5億ドルのファンドを組成した。だが最近まで、担当GPのクリス・ディクソンとケイティ・ホーンのファンドは法的には会社と切り離されていた。従来のVCがつくるファンドには法的な制約がかかることから、彼らは別のメールアドレスと独自のウェブサイトをもっていたのである。

アンドリーセン・ホロウィッツは早い時期から暗号通貨取引所のコインベースに出資しており、17年にはほかの多くの会社と同様、暗号通貨フィーバーに浮かれた。ビットコインやイーサリアムの価格が暴落したあとにも買い増しをした数少ない会社のひとつでもあった。SECの規定はそうした投資を「ハイリスク」と見なしており、従来のVCのファンドには20%という出資の上限を課している。

そこでこの春、アンドリーセン・ホロウィッツはこれまでに比べてもかなり「いけ好かない」動きに出た。VCであることの恩典を捨て、ファイナンシャル・アドバイザーとしての登録を行ったのである。書類上の処理が完了したのは3月のことだった。コストと痛みを伴う一手ではあった。コンプライアンス責任者の雇用や、個々の従業員の監査が必要だった。ファンドの出資者がポートフォリオや運用成績について公言することも禁じなければならなかった。

メリットは、社員が再び自由に取引の情報を共有できるようになったことだ。例えば不動産のエキスパートと暗号通貨のエキスパートがタッグを組むことで、ブロックチェーンのスタートアップが家を買う取引などを取り扱えるようになったと、ホーンは言う。

アンドリーセン・ホロウィッツが新たな成長ファンドをつくる際にも都合がいい。最新任のGPのデビッド・ジョージはこの新たな20〜25億ドルを使って、すでに出資した企業はもちろん、ほかのより大きな高成長企業に投資できる。新たなルールの下では、創業者や初期の投資家から株式を買い入れたり、上場株を買ったりすることも可能だ。

シード専門のVCと一握りの巨大な万能VCに二極化すると予想されるこの業界で、アンドリーセン・ホロウィッツはこうして生き残りを図っている。従来型のVCは、より洗練されたエンジェル投資家とソフトバンクのビジョン・ファンドのような巨大な非VCに挟まれ、これまでにない重圧を受けるだろう。

アンドリーセンは不敵に笑う。 「“ほかと違うもの”だけが、抜きん出る」


Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン)◎1971年生まれ。23歳でNetscapeをAOLに42億ドルで、36歳でOpswareをHPに16億ドルで売却。09年、先の2社の同僚ベン・ホロウィッツとともに、アンドリーセン・ホロウィッツを創業。

文=アレックス・コンラッド 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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