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シネマの女は最後に微笑む

「ある女流作家の罪と罰」のセットにて(Photo by Raymond Hall/GC Images)

先月、草間彌生の贋作を自身の経営する画廊で販売した岡山市の飲食業者が、詐欺と著作権法違反の疑いで逮捕された。

インターネットオークションで約5万円で購入したものを、324万円で販売していたという。本人は「本物だと思っていた」と供述しているが、購入額と販売額の落差を見れば、当然確信犯だろう。

贋作の話はたまにニュースになるが、この件とは反対のケースもある。サンフランシスコ美術館が所蔵するゴッホの『果物と栗のある静物』は、半世紀前に一般市民から寄贈されたものだが、長らく贋作とみなされてきた。しかし再鑑定の結果、真作だったことが今年2月に発表された。

偽物か本物か。絵画から手紙に至るまでそれが大問題になるのは、オリジナルに高い市場価値が付いているからに他ならない。そして、鑑定士の目を欺く「優れた贋作作家」ほど、その作家に惚れ込み、自分ほど彼/彼女の作品を理解できる者はいないという自負を持っているものだ。

今回紹介するのは、『ある女流作家の罪と罰』(マリエル・ヘラー監督、2018)。60年代にキャサリン・ヘップバーンへのインタビュー記事で注目され、有名女優の伝記作家としてキャリアをスタートさせたにも関わらず、手紙の偽造に手を染めてしまったリー・イスラエルの自伝が元になっている。

これでもかという「どん詰まり感」

ドラマの始まりは、かつての成功から時を経た1991年。会社の事務でデスクに向かう51歳のリー(メリッサ・マッカーシー)の姿の、どんよりするようなダサさが強烈だ。もっさりしたショートヘアに眼鏡、肥満した体型にお洒落とは程遠い地味な服。

「あんな風になる前に死にたいわ」と聞こえよがしに言って通り過ぎる若い事務員達に、「今すぐ殺してやろうか」と言い返すリー。しかも仕事中の飲酒を咎められてクビになる。

次いで出版社のパーティに潜り込んだリーは、知古の編集者マージョリーに仕事のアピールをするも軽くあしらわれ、腹立ち紛れにクロークで人のコートをちゃっかり着込んで帰る。完全に落ち目の貧乏な女性作家の、その孤独な後ろ姿にかぶる Can you ever forgive me? (私を許してくれる?)のタイトル。

冒頭からなかなかキビしい展開に、この惨めで見た目も性格も良くない中年のヒロインに、107分間付き合えるだろうか‥‥と心配になる人もいるだろう。

あまり清潔感のないアパート、老いた病気の飼い猫、滞った猫の治療費や家賃捻出のため本を売ろうと古書店に行くと、自分の本が一山いくらで売られているのを目にしてしまう悲劇。これでもかというどん詰まり感が満載だ。

しかし、思い切って売りに出したヘップバーン直筆の手紙が高値で買い取られたことから、物語は意外な方向に転がり出し、リーの運命は大きく変わっていく。

文=大野 左紀子

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