なかでも筆者が注目したのは、フィンランドのライフスタイルを紹介するビジュアル本を多く手がける地元の出版社「Cozy Publishing」が、イッタラやフィスカースなど6つのインテリアブランドをキュレーションしたサロン空間だ。
Cozy publishingがキュレーションした空間
その魅力は、北欧デザインが感じられるミニマルなデザイン、グレーの色使い、自然素材や植物の配置などが特徴的な空間デザインだけではない。サロンに各社の主要人物やデザイナーらが集結し、とてもアットホームな雰囲気で来場者をもてなしていたのが印象的だった。
会場を案内してくれたフィンランド人デザイナーの知人に話を聞くと、フィンランドのデザイン業界はそれほど大きくないため、皆が近しい関係で仕事をしているという。グラフィック・デザイン、エディトリアル・デザイン、空間デザインを手がける彼女自身、デザインウィークやハビターレに出展する主要ブランドの多くをクライアントに持つ。
フィンランドのミニマルアパレルブランドNomen nescioの創業者兼デザイナーの2人も自ら店頭に立って接客
家具やデザインに特化した展示会であるハビターレにも、独特のアットホーム感があった。9月11日から15日までの開催期間中、いわゆるB2Bのプロフェッショナル向け展示会は初日のみで、2日目からは一般消費者も来場する。
同じ展示会会場ではアートやアンティークの販売も行われ、区画によっては展示会というよりフリーマーケットのような雰囲気も漂う。業界関係者の間だけでなく、一般の人とデザイン業界関係者との距離感が近いことも、フィンランドのデザイン業界の特徴かもしれない。
この「心地よさ」はどこからくるのか?
「世界一幸せな国」として認知が広がりつつあるフィンランドだが、当然、個々の人生における主観的な考えと、インデックスに基づき算出された「幸福度」にはギャップがある。フィンランド人もこの結果については複雑な感情を持っている様子だが、福祉国家の社会保障に関しては、やはり自国民の評価も高い。
とくに一定期間就労していた場合の失業手当は手厚い。滞在中、たまたま失業手当を受給している人たちとも話したが、一定の条件を満たせば、前職の給与の5〜6割程度の手当が出る。なかには、週5日のうち数日分は働き、残りの日数は失業手当をもらうという選択をしている知人もいた。失業手当をもらっていても、彼らは惨めな暮らしをしている雰囲気もなく、多少の余裕さえ感じられた。
フィンランドのクリエイティブイベントに共通するアットホームな雰囲気は、居心地の良さであり、快適さである。社会インフラに恵まれた国、上下関係やジェンダー格差が少なく平等主義に満ちた社会であるからこそ、人々に余裕があり、居心地のよいクリエイティブシーンが活発化するのかもしれない。
「居心地のよさ」は、これからの社会デザイン、ライフスタイル・デザイン、ビジネス・デザインを考えるうえで、「幸せ」をより具体化したキーワードとして注目していきたい。
連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
過去記事はこちら>>