──会社を立ち上げる、それも東京で起業するというのは、ものすごく大きなライフスタイルの変化だったのではないでしょうか?
その通りではありますが、今も当時とあまり変わっていないと言えば変わっていないかもしれません。
京都にいたころより外出することはずっと増えましたが、東京に来てからも、それほど出歩いていなくて。
普段から移動するのは目と鼻の先にある自宅と会社の往復くらいで、休日もほとんどの時間を自宅で過ごしています。
クラスターのようなコンテンツ業界は会食の機会が多いのですが、それはCOO兼CFOや営業責任者などと分担して顔を出させてもらうようにしています。
打ち合わせなどの場合、わざわざクライアントさんから来ていただくことも多いです。
VRのデモ体験を社外でしていただくのはまだ難しいという事情もありますが、僕が外出嫌いな「元引きこもりの起業家」だから気を遣っていただいているんだと思います(笑)
──東京で起業した後も、ある意味、引きこもりを続けて、エンタメのコンテンツを浴び続けていますね。
エンタメに触れることによって、インプットを得ることがきています。そこで得たアイデアを仕事にアウトプットしていくローテーションを維持するために、自宅でも会社でも、できるかぎりエンタメに接するようにしています。
会社への行き帰りには数分しかかからないのですが、その間も本を歩きながら読んだり、スマホでアニメを観たりしています。
僕の場合、アウトプットも「仕事」というより、本当に好きなことなので、「遊び」との境目がとても曖昧になっています。
僕はもともとSFが大好きで、会社を作ったのも、それが大きな理由です。
『ガンダム』シリーズに出てくるアナハイム・エレクトロニクス(ハイテク企業)で働くことが、昔からの夢だったんです。
イマジネーションの想像とクリエーションの創造、2つの“ソウゾウ”はSFにもプログラミングにも科学・技術にも不可欠です。
起業をしてから、少しだけアニメなどの映像作品に触れる時間が減ってしまったのですが、読書量はほとんど変わりません。
小説だと、最近読んで面白かったのは日本語版が7月に出た『三体』。400ページ超の大作ですが、夢中になって2日間半ほどで読了しました。
『虐殺器官』や『ハーモニー』で知られる、伊藤計劃さんの作品も好きですね。
ハードSFならではの世界観に心を惹かれるのは、学生時代から変わっていません。
起業家は「何をやるのか」という点に注目されがちですが、それを「何のためにやるのか」も重要だと思っています。
「自分はこういう世界を作りたいんだ!」、「自分はこういう世界は嫌なんだ!」という強い思いが源泉にあるはずで、僕もそうです。
「全人類が不要な外出をやめて、引きこもる。それでも意識が通いあう世界を実現させたい」という「中2病」の夢ですが、そういう夢や作りたい世界があるから、この仕事をつらいと思わずに続けることができています。
僕が産まれてから、日本は平成の30年間、右肩下がりの続く暗黒の時代でした。
でも、いいところもたくさんある。オタクだらけだし、ものづくりの丁寧さはコンテンツの面でも強みになります。アニメのIP(知的財産権)もかなり多くを押さえていて、VTuberも日本から火がついたもの。
いずれも歴史と文化の賜物で、日本を軸にビジネスを展開していくメリットでもあります。そんな中でクラスターがどれだけ大きな存在感を示すことができるか、楽しみですね。
今後3年で成し遂げたいことは?
加藤直人◎1988年大阪府生まれ。京都大学・同大学院で宇宙論および量子力学などを学ぶが、大学院を1年で中退。2015年、バーチャルイベント用のプラットフォームの開発・運営を行うクラスターを創業。同社にはエイベックスやDeNAなども出資。