世界最高峰のワイナリーが家族経営を続ける理由

プリムム・ファミリエ・ヴィニ(Primum Familiae Vini)のメンバーの貴重なバック・ヴィンテージのワイン(2019年7月筆者撮影)


ワインは歴史や文化を表すものだ。特に、伝統的なワイン産地であるヨーロッパを訪れるとそれを感じる。

PFV(プリムム・ファミリエ・ヴィニ)のメンバーのワインは、何世代にもわたり、家族の間で受け継がれてきたクラフトマンシップにより造られてきた伝統文化そのものだ。このようなワインを次世代に引き継いでいくことは、その土地の宝を守ることでもある。アンティノリは700年、ヒューゲルは380年の歴史を持つが、PFVのメンバーの歴史を全部足すと2500年にもなる。


仏アルザスの名門、ヒューゲル・ファミリー。左端がヒューゲル・かおるさん(2019年7月筆者撮影)

ワイン造りは簡単なビジネスではない。高品質なワインを造るには、長い年月がかかる。定期的に多額の設備投資も必要だ。農作物が原料である以上、収入は毎年の天候にも大きく左右され、予測不能な事態も起きる。

現PFVのリーダーを務めるマルク・ペラン氏は、「PFVの活動を通じて、ワイン造りには長い目で見たアプローチが大事なことを皆さんに知ってもらいたい。実際のところ、どのファミリーも将来の世代のことを考えて、ワイン造りをし、ビジネスの決断をしている」と語る。ワインビジネスにおいて、短期的な利益にとらわれず長期的な視点を持てることは、家族経営の利点の一つなのだ。

ペラン・ファミリー(Famille Perrin)は、南ローヌを拠点に「シャトー・ボーカステル」(Chateau Beaucastel)など、長年にわたり秀逸なワインを造っている。ビジネスのセンスにも長けていて、「ミラヴァル(Miraval)」というハリウッド・スターが関与していることで有名な南仏のロゼ・ワインのプロデューサーとしても成功を収めている。


仏・南ローヌに拠点を置くペラン・ファミリーの兄弟(2019年7月筆者撮影)

PFVのメンバーは、いずれもトップクラスのワイン生産者で、独自の歴史とブランド力を誇るが、それでも、未来永劫、家族経営を維持できることが当たり前とは思っていない。

シミントン(Symington)はポルト・ワインの伝統的な生産者だが、そのCEOであるポール・シミントン氏は、「現在のワイン業界は、スーパーで売られるような大量生産のワインと、我々のようなファイン・ワインに分かれている。前者がワインをコモディティ化することで伝統を壊すことを危惧している。我々のワインには歴史と伝統、そしてストーリーがある。それを積極的に消費者に伝えることが大事だと考えている」と語る。


シミントン夫妻
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文=島悠里

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