国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」

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先月、ロンドンに行った時に、ロンドン・タクシーに乗った。世界一のタクシー運転手として知られるキャビー(タクシードライバー)だからこそ、今話題のウーバーについて聞いてみることにした。その直後の爆発的なコメントは忘れられない。

「ウーバーはダメですよ。あんなのはインチキ!」という。実は、どのキャビーに聞いても、同じ応えが返ってくる。みんな怒っている。一般ユーザーから見ると、ウーバーは予約しやすく、使いやすいと思われがちだが、プロの運転手から見ると、素人が起こす問題だらけのようだ。

「あれは、ゴーカートしか経験したことのない人間が、いきなりF1のレースに来て、『運転させろ』と言うのと同じだからね」とキャビーのジョンさんがいう。

僕はとても共感できる。実は、ちょうど僕がロンドンにいた9月末、ロンドン交通局がウーバーの運営許可を取り消し、その代わりに2か月だけ運営して良いということになった。言い換えれば2か月だけ更新された。

つまり、ウーバーが法律を守って走行したり、見かけた犯罪などを警察にしっかりと通報できるかどうかの試用期間が与えられた。保険なしで走行して事故を起こした数人のドライバーがいたので、ウーバーは350万円ほどの罰金を課せられている。

実は、イタリア、ハンガリー、デンマークなどでは、ウーバーの運営ライセンスはそれぞれの国の交通局に取り消されている。アメリカでも、いくつかの州で営業停止になっている。

でも、ロンドンのキャビーから見ると、もっと根本的な問題がある。ロンドンのキャビーは5年以上かけて『ザ・ノレッジ』(ロンドン知識)を勉強しなければならない。ロンドンに行ったことのある人ならわかると思うが、ロンドンのタクシー運転手は地図やナビを必要としない。彼らはロンドンとその周辺の地図を全て暗記しているのだ。


ロンドンのタクシー / Shutterstock.com

「でも、ウーバーのドライバーは、『ザ・ノレッジ』を勉強しなくてもいいでしょ。ナビを使えばいい。それに、マナーが悪い。ロンドンに多い一方通行の道に入ったら、客を下ろす時に、後ろから来る車を邪魔しないように、左側に停めるべきか、右側に停めるべきか、ザ・ノレッジを持った人間じゃなきゃわからない」とジョンさんはいう。

または、プロの運転手ほど知識がないウーバーのドライバーは、客に美味しいレストランや質のいいスーパーなどを聞かれても、良い応えが返ってこないともいう。

ウーバーにはもちろんメリットがある。1つは、ウーバーとロンドン・タクシーのデジタルな携帯電話アプリを比べた場合、ウーバーの方がロンドン・タクシーより扱いやすいし、対応が速いと多くの若者がいう。

でも、ウーバーみたいなサービスが許されると、ロンドン・タクシーの文化は薄れ、運転手の質が下がり、そして昔から大切にされてきた「ザ・ノレッジ」を維持できる人間はどんどん減っていってしまう。それは、ロンドンにとって大きな損失になリかねない。

一方、東京ではどうなのか。ウーバーは確かに日本に上陸はしているけど、それほど普及してないのが現実だ。

その理由が面白い。アメリカや欧州で大ヒットしたのは、それらの国々では、タクシー運転手のマナー、タクシーの清潔感、タクシーを呼んでもすぐ来てくれない、などに対する不満が多いからだと言う。

でも、日本のタクシーは清潔で、運転手のマナーが概ね良好で、しかも、だいたい時間通りに来てくれる。しかも、東京でのウーバーの車両の料金は一般のタクシーより高い。

そんな中で僕から提案するとしたら、日本、特に東京を走るタクシーの運転手には、ロンドンの「ザ・ノレッジ」みたいなものを勉強してほしい。東京のタクシーの運転手のほとんどはマナーが良いし、車両は清潔だけど、もう少し道を知ってても良いんじゃないのかな。それに、加速とブレーキの技術をもう少し磨いてほしいな。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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文=ピーター・ライオン

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