身も心も裸に。サウナ映画から見える、意外な社会の顔|フィンランド幸せ哲学 vol.5

フィンランド湾にあるサウナに入った後に、海へ


サウナで素顔を語る理由
ひとりの出演者は、犯罪歴があり、今では更生し、結婚して子供を授かり、小さな幸せを感じながら暮らしていることを、包み隠さず話していた。

彼との出会いのきっかけは、ミカが北極圏のある街で、スーパーマーケットのコーヒーコーナーの店員に映画撮影の話をした際に、紹介してもらったという。彼はすぐに店に駆けつけ、コーヒーを飲みながら少しだけ話をしてから、すぐに実家のサウナで撮影した。出会いからわずか30分ほどの展開だったという。

なぜ、彼らは素直に自分の人生を語ってくれるのだろうか。ミカはこう語る。「裸になるということは、何も武器など隠すものが無く、素の状態になる。すべてが削ぎ落とされて、格好をつけることもできなくなり、自然と心を開くのでしょう」。


『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

それにしても、登場する人たちが、物語のように話をするのがうまいように感じた。しかし、ドキュメンタリーなので、とくに演出をしているわけではなく、台本もあるわけではない。フィンランド人の男性は、寡黙だけど実は話をするのが上手いのだろうか。今度はヨーナスが首を横に振った。

「フィンランド人男性が話し上手というわけではなく、私たちはたっぷりと時間を与え、静かに黙って聞いていました。サウナでの雰囲気が、彼らを自然とそうさせたのでしょう」

これは、もしかしたら私がフィンランドのサウナで体験した「サウナ・マジック」と同じなのかもしれない、と思った。汗を流しながらリラックスできる空間では、心を開きやすいのだろう。

社会は男性たちの声に耳を傾けない

ヨーナスは続けて、フィンランド社会の意外な問題点を口にした。

「フィンランド社会では、男女平等が訴えられてきて女性の立場は良くなってきましたが、一方で、男性たちの声に聞く耳を持たないことが問題になっています。女性たちは元気ですが、フィンランド人男性は寡黙で、無口な人が多い。すると、社会も目をかけてくれなくなってきたようです」


『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

ドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』には、「男性の声にもう少し耳を傾けよう」、そして「男性たちはもっと心を開いて話しましょう」というメッセージも強く込められているそうだ。

実は、この裏テーマに、私はハッとした。私たちもフィンランド社会に目を向けたとき、福祉や男女平等において先進的だと感じるあまり、実際には新たな問題にも直面していることに、なかなか気づきにくいのではないだろうか。

確かに、フィンランドは、1906年から女性が参政権を獲得し、国会議員の4割は女性、閣僚は19人中11人が女性で男性より多く、先進的だ。日本の場合、先月発表された安倍内閣の新しい顔ぶれでは、閣僚19人中、女性は2人しかいない。

今後、日本でも政治だけでなく企業などあらゆる組織で、女性のリーダーが増えていくだろう。フィンランドは20、30年先の日本の未来の社会像を表しているようだ。

最後に、ミカとヨーナスに、日本とフィンランドの共通点と私たちへのメッセージを聞いた。

ミカは「性格的に控えめで、自分を表に出さない精神は似ているように感じる。ミニマリズムの考え方、もったいないという(物を大切にする)文化はフィンランドにもあります」、ヨーナスも「日本人には似たものを感じている」と語り、「フィンランドでも、かつては男社会で、一家の主人は男性だった。そして男性の生き方は、仕事がメインで自分のことは後回しにしがちでした。だからこそ、自分たちの体や心のケアにも目を向けて、自分を大切にしてくださいね」と呼び掛けた。

私のフィンランド紀行はひとまずここでピリオドを打つが、今回の旅を通じて、日本との精神性の共通点を認識しつつ、新たな社会の顔を知ることもでき、まだまだ奥深いものがあるように感じた。この国から学べることはもっとある。前回の両国の美学についてもそうだったように、お互いインスピレーションを受け合ってきた歴史がある。これからも、フィンランドの新しい姿を追っていきたい。

「フィンランド幸せ哲学」連載ページ開設



Forbes JAPAN Webでは、「フィンランド幸せ哲学」の連載ページを開設。これまでの記事に加えて、今後も、フィンランドから学べるヒントを探るシリーズとして、随時更新していく。

文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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