身も心も裸に。サウナ映画から見える、意外な社会の顔|フィンランド幸せ哲学 vol.5

フィンランド湾にあるサウナに入った後に、海へ


今回、ヘルシンキを旅する間に、真偽は不明だが、サウナにまつわるひとつの逸話を聞いた。ある取材をした際、女性から聞いたこぼれ話だ。

30年以上前のことだが、職場にもサウナが完備されているフィンランドでは、サウナの中で男性だけで重要事項を話し合われていることがあり、「それは男女不平等だ」と、男性と同じようにタオルを巻いて入って参加した女性がいたそうだ。だが、男性たちは「気が変になるから」と、サウナの中で重要な話し合いを進めることはしないようになったという。

日本で公開中のサウナ映画監督と会う

帰国後、偶然にもフィンランド発のサウナを題材とした映画が日本で公開され、共同監督した2人のフィンランド人のドキュメンタリー監督が来日するという情報をキャッチした。

映画は、アップリンク渋谷やアップリンク吉祥寺などで公開中のドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』だ。シャイと言われるフィンランド人男性が、身も心も裸になったサウナで、人生の悩みや苦しみ、幸せななどを打ち明ける、14のエピソードで綴られる。

この映画は、フィンランドでは2010年に公開されたが、1年以上のロングラン上映を記録したという。今年、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して、9月14日から日本でも全国順次公開されることになった。


『サウナのあるところ』 (C)2010 Oktober Oy.

キャッチコピーは「サウナのロウリュ(蒸気)は、やさしく心を溶かしていく」。男性たちが、さまざまなサウナで汗を流しながら次々と涙を流して語るシーンは、心の底から悲しみが浄化されていくようだ。


ヨーナス・バリヘル(左)とミカ・ホタカイネン。フィンランド大使館にあるサウナで筆者が撮影。

監督は、ヨーナス・バリヘルとミカ・ホタカイネン。2人とも体格は大きいが、穏やかな口調で静かに話す姿が印象的だった。

出演者には、ヨーナスとミカが、手分けして全国の街中や公衆サウナなどで、「あなたの好きなサウナで、人生についての話を聞かせてほしい」と、直接声をかけて、探し回ったという。当然、裸で撮影することになるため、交渉のハードルは高かったのではないだろうか。するとミカは、首を横に振ってこう答えた。

「裸の状態は、フィンランドの男性にとってなんてことないんですよ。サウナに服を着て入らないでしょ。裸でいることは、自然でリラックスした状態なんですよ」

ミカはそれぞれにテレビや映画館の大きなスクリーンに映る可能性を説明したが、「何をゴタゴタ言っているんだ。早く入ろうよ」といった反応だったそうだ。
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文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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