翌朝、比田勝港の周辺を歩いた。商店の並ぶ通りは閑散として、時おり若い韓国人客が歩いている姿を見かけるくらい。目につくのは、ゲストハウスや民宿、着物の着付け体験ができるカフェなど、韓国人客向けの観光施設の多くが閉店休業した抜け殻のような光景だった。
客船ターミナルの前に新しくできた免税店には客はおらず、5~6人いた韓国人スタッフが暇をもてあまして、頬杖をついていた。普段はパスポートのない日本人は入れない場所だが、5%割引で開放されていた。
城下町である厳原も訪ねたが、地元の声はさまざまだ。数年前に本州から移住してきた「(韓国人客で)行列のできる店」として知られるラーメン屋の店主は「街の風景が変わった」と、売上減を嘆いていた。別の飲食店で働く若い女性は「だって、対馬に行こうとする人に嫌がらせするんでしょ」と、他人事のように言った。
ある居酒屋の常連客は、「以前は韓国人客ばかりで店に入れない日もあったが、いまは安心。年間40万人は多すぎる。その半分くらいがちょうどいいんじゃないか」とオーバーツーリズムがもたらす地元民の不満を吐露した。
「被害者」は韓国の船会社や旅行会社
2018年に対馬を訪れた韓国人客数は、過去最高の約41万人。島を訪れる観光客の76%が韓国からであることから、一部のメディアは「対馬の経済は韓国人で成り立っている」などと安易に書くが、実際はそんなわけはない。
実態を見聞するかぎり、ある地元関係者が話した次の言葉に納得してしまう。
「いちばん煽りを食ったのは、韓国の船会社や旅行会社」
対馬のインバウンド投資に参入した人たちこそ、「被害者」だったのだ。
ゲストハウスのそばに置かれたレンタサイクルもハングルの説明文のみ
なんともやりきれない皮肉な話だが、対馬に来てもうひとつ興味深く思ったのは、休業中の韓国人経営のゲストハウスのそばに置かれた50台以上もあろうかというレンタサイクルだった。その置き捨てられた光景から、比田勝がいかに若い客層であふれていたか想像ができた。