ビジネス

2019.10.04

46億円の大型調達。医師と事業家のタッグで挑む「がん見逃しゼロ」の世界

(左)代表取締役COOの山内善行 (右)代表取締役会長・CEOの多田智裕


AIメディカルサービスの創業にあたって、周りから「ビジネス周りを任せられる人がいた方がいい」と言われ、声をかけたのが代表取締役COOの山内善行だった。

山内は2006年にQLifeを創業。日本最大級の病院検索・医療情報サイトを立ち上げたほか、ヤフーなどと資本提携を結び、製薬会社支援、医師・診療所向けサービスを手がけており医療ビジネスに精通している。

2016年にQLifeをエムスリーに売却しており、ちょうど次の挑戦を模索しているタイミングということもあり、創業のタイミングでAIメディカルサービスにジョインした。

約80の医療機関と提携。良質かつ膨大な数の内視鏡画像を集める

同社の強みは医療機関との連携にある。日本有数の医療機関から膨大な数の内視鏡画像を集め、それを一枚ずつ精査し、AI用画像データベースを構築している。

それをもとに、多田は内視鏡画像からピロリ菌の感染診断を行うAIの開発に着手。開発を進めていった結果、医師23名の平均値をAIの診断精度上回った。その成果をピロリ菌AI診断論文として世の中に発表し、「EBioMedicine誌」に掲載されている。

その後、胃がんについても、がんの画像をもとに機械学習したAIを開発。世界初となる胃がん人工知能拾い上げ論文として、「Gastric Cancer誌」に掲載された実績を持つ。それらの実績が少しずつ知られていき、提携する医療機関は拡大。現時点で80施設と共同でディープラーニング(深層学習)を活用した内視鏡AIの研究を重ねている。


胃がんの拾い上げ(検出)

AIメディカルサービスが開発したAIは、6mm以上の胃がんは98%の精度で検出するほか、1画像の診断にかかる時間はわずか0.02秒。つまり、2296枚の画像を47秒で診断できるということになる。

「AIの開発においては、教師データ(AIに覚えさせるデータ)の質と量がカギを握ります。その点において、私たちは全国の有力病院と数十名の内視鏡専門医の協力を得ており、良質かつ膨大な数の画像を継続的に集めることができています」(多田)

世界の内視鏡AI開発は「大腸ポリープ」「静止画」に関する取り組みが多いが、AIメディカルサービスは「早期の胃がん」を最初の製品化の対象とし、現在は「動画」対応のAIも開発。病変の検出、状態の判別、範囲表示まで一貫して行えるようにするという。

「医師が診断しているところに、リアルタイムでAIが診断をサポートしていく。将来的にはそんな世界を実現していきたいと思っています」と多田。

同社の内視鏡AIが臨床現場で使われる日は少し先になりそうだが、今回の調達で臨床試験も推進していく。まずは“胃がん”の検出から進めていき、最終的には消化器、すなわち「食道・胃~小腸・大腸」に対する内視鏡検査をAIが支援できるようにするという。

日本から、世界の内視鏡医療に貢献する──AIメディカルサービスの挑戦はこれから本格化していく。

文=新國翔大 写真=小田駿一

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