その時の棟梁に「何でこんなに早くできたのですか?」と質問すると、「特に指示を出していない」と返ってきたんです。
全国から集まった17人の大工に「あなた達には心を込めて仕事をしてもらうことを頼みたい。労働やなくて仕事や。仕事というのは力を出し切って突っ込んでいくことやと思います。労働やと思えば働く時間が優先します。時間があったら棟梁の命令を待つでしょう。そうではなく、仕事ならば大工一人一人心の中に出来上がった棟があり、自分が今、どの部分を受けもっているのかわかっているはずだ」と伝えたそうです。
「日本最古のお寺をどう再建したいのか」というビジョンを共有したら、あとは勝手に大工達が自分で考えて作っていったのです。
まさにこれだと思いました。自ら考え、自ら動く組織を作りたいですね。
──御社もそうした組織を作ることができるように動いているのですね。
はい、今ユーザベースでは「自走する組織」となることを非常に大きなテーマとして掲げています。これまでのようにコマンダーが命令して、命令に従って動く組織では、これからは未来がないと感じています。
私たち人間の一番の強みはモチベーションがあることです。つまり、意思の力こそが人間が生かすべき最強の資産なのです。そうすると、モチベーションを最大限に活かす組織を作ることが、今後間違いなく強みになりますよね。
そのために必要なことは、メンバーにビジョンをきちんと共有した上で自由にし、いかに自ら考え、自ら動き、自ら創造するという環境を作るかということです。これが、組織を作っていく上での勝負を決めると思います。
まだまだ完璧からは程遠いですが、理想に向けて試行錯誤を続けているところです。
ビジョンとバリューだけに甘えない意識
──スタートアップ企業にとって、どうやって優秀な人材を集めるかは重要かと思います。どのような工夫をされていますか?
スタートアップ企業には、知名度や信頼などがないだけに、「ビジョンとバリューがあるか」が何よりも重要になります。これは、どのスタートアップ企業でもいえることではないでしょうか。
ただ、「スタートアップ企業だから、ビジョンとバリューだけあればいい」というのは甘えだとも思います。同時に、給与体系など社員にとっての金銭的な価値も整えていく必要があります。たとえ、今はリソースがなくてできなかったとしても、将来実現する意志を示し、一緒に作っていくことが大切ですよね。「成長したら、この給与体系にしていきます」などとメンバーに示していく必要があります。
連載:起業家たちの「頭の中」
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