米中が対立するなか、日本は自由貿易の旗手になれ

2019年の世界経済には暗雲が漂っている。何といっても、最大のリスクは米中貿易戦争である。トランプ米大統領は、二国間貿易赤字が巨額に上ることから、中国からのハイテク製品を中心として、3回にわけて関税を引き上げてきた。これに対して中国も、アメリカの農産品を中心に報復関税を課してきた。8月に入り、トランプ大統領は、対中関税の引き上げ第4弾を9月1日から実施すると発表。世界的な株安と為替市場の混乱が起きている。

トランプ大統領は、多国間国際秩序の無視と、アメリカに有利な形での二国間貿易協定の再交渉や締結を目指してきた。世界貿易機関(WTO)に違反する形での一方的な関税引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、米韓自由貿易協定の再交渉、などを行ってきた。8月5日には、米財務省が中国を為替操作国に認定して、貿易戦争はさらに悪化しそうだ。

一方、中国は、国内経済の減速が目立ってきた。中国は、アメリカからの輸入品すべてに報復関税をかけたとしても、中国からアメリカへの輸出が、アメリカから中国への輸出をはるかに上回る以上、損害は中国のほうが大きい。トランプ大統領は、この事実をもって、中国との貿易戦争には勝てると確信している。しかし、本当にそうだろうか。アメリカは、関税収入以外で大きなものを失うのではないか。
 
日本は、これから日米貿易交渉を早期に妥結させたいと考えている。日本の農産品のアメリカからの輸入にかかる関税を、アメリカが脱退する前のTPPで約束されていた水準に引き下げるのと引き換えに、アメリカが日本からの輸入にかけている自動車など製造業品にかけている関税を撤廃させることができれば、日本にとっては、大成功だ。

昨年から今年にかけて、日本はTPPについてはアメリカ脱退後の11カ国をまとめて「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP)を合意、実施に持ち込んだ。さらに、日本はEUとの自由貿易協定も合意、実施に持ち込んだ。日本は、アジア太平洋と欧州の自由貿易圏をまとめる要になった、といえる。日本や欧州は、トランプ大統領による鉄鋼やアルミの関税引き上げの被害は受けているものの、全面的な貿易戦争は回避できている。
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文=伊藤隆敏

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