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2019.10.18 11:00

ビジネスのデジタルトランスフォーメーションは、社会課題解決に結びつくか Salesforce World Tour Tokyo 2019

クラウド型顧客関係管理(CRM)で15万社以上の企業顧客をもつ「セールスフォース・ドットコム」が毎年、世界12都市で開催する 「Salesforce World Tour」。日本では今年9月25~26日に開かれ、1万1000人を超える来場者が会場となったザ・プリンス パークタワー東京と東京プリンスホテルへ足を運んだ。

2日間で200以上のセッションが開かれ、Expoブースではアクセンチュアや富士通、日立などの協賛企業85社が展示。人、モノ、データをつなぐ第四次産業革命の時代、新たなビジネスイノベーションに挑む各企業が、デジタルトランスフォーメーションの事例を披露した。

今年のイベントでは、持続可能性や社会変革にまつわるトピックが色濃く見られた。そこで今回のレポートでは、そうした社会課題解決への取り組みをテーマとしたセッションを中心に紹介する。


ビジネス・カンファレンスというより、ファン・コンベンションのような明るい熱気が漂うのは、着ぐるみのマスコットや会場スタッフの西部劇風コスチュームのせいばかりではない。来場者の多くがSalesforceユーザー、いわゆる「Trailblazer(先駆者)」として参加しているからだ。Salesforceの操作は無料のオンライン学習コース「Trailhead」で学べ、資格を取ることもできる。仕事を探す子育て世代の女性や、異なる業種からの転職を望む人にとって、操作をマスターすることはビジネスチャンスとなる。そこかしこで聞かれる成功者たちの体験談が、このカンファレンスにポジティブな雰囲気をもたらしているのかもしれない。

「大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私にとってSalesforceは私の人生を豊かにしてくれたきっかけです」

基調講演でコミュニティリーダーとして登壇した新美啓子氏(株式会社ユー・エス・イー)は、エンジニアから営業、そして人事へとキャリアを発展させてきた。業務上の問題を相談しようとTrailblazerコミュニティに参加するうちに、友達が増え、やがて働く女性のためのグループを立ち上げるまでに至った。さらに「NPO団体を支援するプロボノ活動をしたり、MVPになってからは海外の信頼できる仲間たちとも出会うことができた」という。


Salesforce MVP 新美啓子氏(株式会社ユー・エス・イー)

人種や社会的階層に関わらず、誰もがキャリアアップやジョブチェンジを実現することを支援する。イクオリティ(平等)は、セールスフォースの企業理念のひとつだ。小出伸一代表取締役会長 兼 社長は、このコアバリューについてこう説明する。


株式会社セールスフォース ・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出伸一氏

「もっともイノベーションに重要なファクターは何か。それは多様性の融合だと思う。多様性のある人たちがお互いを尊敬し、信頼し、認め合うことで、新しいイノベーションを生み出すことができる。その企業文化を醸成するためには、イクオリティというものが大切になってくる」

セールスフォース・ジャパンが昨年度の「Great Place To Work」、働きがいのある会社、大企業部門で第1位を得たのは、こうした理念も大きく作用したことだろう。


基調講演では、農業の成長産業への革新に挑むクボタの事例も紹介された。高齢化により兼業農家が減少する一方で、大規模化している「プロ農家」を支援するサービス。圃場管理や作物のデータ分析を可能にする独自のシステム「KSAS」に、農家とメーカー、販売店を三位一体でつなぐセールスフォースの顧客管理クラウドを連携させている。

※セールスフォースのクラウドサービス「Customer 360」では、どの企業も望む、顧客中心のビジネス形態が築かれる。顧客がアプリやSNS上で生成するデータを接点として、企業は顧客とのつながりを増やし、AIで分析。そしてその顧客情報をマーケティング、販売、サービスなどの部門で共有することで、一貫したカスタマーエクスペリエンスの提供を実現する。IoTやセキュリティ、ブロックチェーンなど新しいテクノロジーを組み込むこともできる。

日本のCEOが、社会変革を担うリーダーとなるために

多くの米大手企業が採用する「1:1:1モデル」とは、製品、株式、就業時間のそれぞれ1%を非営利団体の支援に活用する、というもの。セールスフォース・ドットコムは創業当初からこのモデルを実施し、利益を出す以前に社会貢献を経営戦略に組み込んでいた。同社CEOのマーク・ベニオフは、自社の利益を求めるだけではなく、社会課題にも声を上げ、行動を起こしていくリーダー=「アクティビストCEO」の代表格であり、Forbes JAPANでもその活動に注目してきた。

弊誌副編集長、谷本有香がモデレーターを務め、3人のCEOがパネリストとして登壇したセッション「Activist CEO ポスト資本主義時代のリーダーの条件」では、この「アクティビストCEO」がテーマとなった。ディスカッションはまず、日本の起業家もアクティビストCEOへと変わっていくべきか、という谷本の問いで始まった。


Forbes JAPAN 副編集長 谷本有香

「アクティビストCEOは、アメリカの行き過ぎた資本主義への修正」と応じたのは、マネックスグループCEOの松本大氏。富を独占する大企業やCEOは、社会問題の解決に取り組まなければ、批判にさらされる。また、アメリカの大企業の財政規模は、地方公共団体よりも大きく力がある。「政府に任せるのではなく、自分たちの手で富の再分配をやらないと間に合わなくなっている」と、松本氏は見る。


マネックスグループ代表執行役社長 CEO 松本大氏

一方、クラウドファンディングなどのサービスを運営する「READYFOR」のCEO米良はるか氏は、若い起業家の間では、金銭的価値より社会的意義を考える人が増えつつある、と指摘する。「AIやテクノロジーの進化で人が暇になっていくとしたら、何をやれば世の中で価値があるのだろうかと考える必要が出てきたのかもしれません」。日本は課題先進国と言われるほど、社会課題がわかりやすい。「その課題に対し、若者がクリエイティブなアイデアで事業をつくり、SNSなどで共感する仲間を集めて、課題にアプローチすることができる時代になった」とも言う。


Readyfor代表取締役CEO 米良はるか氏

富をもつ者が社会貢献を担うというモデルでは、利益を出すところほど貢献しやすくなり、マネーゲームの構造は変わらない。だから稼ぎ方の質にこだわるべき、と主張するのはカヤックCEOの柳澤大輔氏。「地域資本主義」というアイデアをもとに、分散台帳技術を活用した地域通貨を発行するプロジェクトを行っている。「電子通貨で使い方とか獲得の仕方を見えるようにして、稼ぎ方に違いがある」ことを可視化するのが狙いだ。


カヤック代表取締役CEO 柳澤大輔 氏

では起業家が社会的なリーダーとして、社会的あるいは政治的な問題に対し声を上げていくことが、今後はより求められるのだろうか。

米良氏は、事業に関わりのないことであっても「自分の思いをフォロワーの人たちに向けて発信をするのは、若い人にとっては当たり前の手法」だという。いまの起業家は、「やりたいことや哲学をうまく世の中に伝えることが重要。哲学を伝え続けることによってより熱量の高い仲間や顧客が集まってきてくれる」と見解を示した。

柳澤氏は、「ボランティアでは、評価から解放される。みんなが全くゼロ円という状態だとどれだけ心が安定するか、実感としてわかる。ボランティアをやると違うエッセンスが生まれ、違う幸せ度も出てくる。経済活動に人生を捧げている経営者こそ、本業と紐づいていないアクティビスト活動やボランティア活動をすることが必要ではないでしょうか」と、起業家のボランティア参加を薦める。

それについては米良氏も同意し、社会貢献活動は会社以外のコミュニティに属する機会にもなる、とそのメリットを加える。自身ががんを患い、経営から半年間離れた際に、経営者としてのアイデンティティや、会社というコミュニティを失うことの辛さが身にしみた。「人生100年時代、帰属できるコミュニティを複数つくっておくことは、大事なことだとそのときに思った。社会活動では、何かに貢献し、感謝されることで、自分が必要とされていて、そのコミュニティの一員だと思えるんです」

Human Rights Watchの国際理事会副会長も務める松本氏も、「平和な国のように見えて、実は日本にも、差別など、不都合な真実みたいなものがいっぱいある。皆がちょっとずつでも問題を指摘し、社会に見えるようにして、変えようと言わなければならない」と言い、自身も今後はさらに発言していく意気込みを見せた。



とはいえ、起業家はどのように社会課題を気づき、発信すればいいのか。

「いろんな人と出会うチャンスをもつこと」と米良氏。「リーダーと言われる人たちが、自分の事業や利益に関わらないところとまずつながって、現場に行って体験し、発信をする。そのためには、その課題の現場にいろんな人たちがタッチできる場所をつくることも必要」になってくるだろう。

サステナビリティへ--マインドセットの改革

初日最後のセッション「サステナビリティ:持続可能な成長と社会変革への挑戦」では、スペシャルゲストのYOSHIKI氏と、企業や団体の代表ら3人が登壇し、サステナビリティへの取り組みや実現への方策を語った。

現在ハリウッド在住で、各国の要人やセールスフォースCEOのベニオフとも付き合いがあるYOSHIKI氏は、このイベントの前日、台風で甚大な被害を受けた千葉県で、がれき撤去のボランティアに参加していた。国連からサステナビリティ大使となるよう打診されるほど、社会貢献への意識が高いYOSHIKI氏だが、「サステナビリティについて、まだ自分の知識がなさすぎる。毎日のように学んでいるが、サステナビリティは衣食住のすべてに関わってくる」。


YOSHIKI 氏

牛肉食やファッションがいかに地球環境に影響を与えるかを知り、あらゆる消費に対し敏感になった。だが危惧するのはサステナビリティにとどまらない。「AIもiPS細胞も、人類は自分たちで人類を滅ぼしてしまうんじゃないかと。僕は父親を自殺で亡くしている。X JAPANのバンドメンバーも同じように亡くしている。ある種、人類はいま、自殺に向かっているのかなと」

「僕らがこの瞬間から、全ての行動の一つひとつが、これからの人類を変えていくんだという認識をもつ。そのためには僕も含めて、学ばなきゃいけない」と力強いメッセージを発した。

西武ホールディングスCEOの後藤高志氏にとって、その前日はライオンズの優勝があった。埼玉西武ライオンズ、プリンスホテル、西武鉄道といった公益性の高い業種では、「持続可能性のあるビジネスを展開し、安定的かつ社会に役立つ」ことが鍵だと言う。


西武ホールディングス代表取締役社長 後藤高志氏

サステナビリティアクションとしては、例えば、新たに運行を開始した新型特急車両「Laview」は、今までの特急に比べ、大幅に使用エネルギー削減を実現した。またプリンスホテルでは、ビュッフェに食品廃棄ロスを啓発するポップを立てて、料理を取り過ぎないように呼びかけている。

たくさんの種類の料理を少しづつ取れるように、パレットスタイルの食器も用意。取り過ぎによって廃棄量が多くなることを防ぐ試みだ。さらにゴミを乾燥させることで処理廃棄物を削減し、肥料等への再利用も行なっている。「今後はAIなどを活用して分析し、適正な量のお食事を提供することで、廃棄物を大幅に削減していきたい」と意気込みを語った。

日本ガストロノミー学会代表の山田早輝子氏は、気候変動にまつわる食のサステナビリティの普及活動を行っている。気候変動を自分のこととして捉える子供達に希望を見出す一方で、「まずは大人の意識改革が先か、地球が限度に耐えられなくなるのが先か、という競争になっている」と警鐘を鳴らす。


日本ガストロノミー学会代表 山田早輝子氏

アメリカで181人のCEOが株主第一主義を止め、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言したことを受け、「CSRではなく、今の時代、従業員にしたこと、地球環境にしたことは長期的に見れば自分たち企業に返ってくる」。ロサンゼルスに14年間住んでいる山田氏は、あうんの呼吸で同じ常識を共有する日本人の弱点も指摘する。

「日本は素晴らしい技術、例えばCO2排出量を低くする技術などを持ち、お米の一粒の中には神様が宿ると、食べ物を大事にする文化もある。もともとサステナブルな国で、技術も持っているが、なぜか海外から評価されない。それはやはり伝え方が下手だからではないか」と締めくくった。

セールスフォースの小出CEOは、企業のサステナビリティへの取り組みについて、「明確な時期と、それに対する目標、そしてコミットメントが大事」と強調する。セールスフォースは2020年までに、100%再生エネルギーで事業を行うと表明している。

「一つ一つの企業が明確な目標のもとにアクションを取る、ということがまず一つ。もう一つはサステナビリティということに対して、きちんとしたデータを取る。CO2の問題にしろ、いろいろなデータをきちんと見極め、管理していくことで削減目標に達成する」。同社で活用している分析方法や収集方法は「Sustainability Cloud」という製品となった。このクラウドサービスで、さまざまな企業の明確な目標設定や数値化に役立ててほしいという。


企業のSDGsへの取り組みを紹介するセッション。エーザイ、LIXIL、三井住友銀行の各社と、慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授、佐久間信哉教授が登壇。医薬品の無料配布から最貧国の衛生環境支援、金融支援の基準作成まで、SDGs達成に向けた各企業の真摯な姿勢が見られた。


交通機関が小売り業や地域開発と関わり、モビリティサービスの一元化を図る MaaS(Mobility as a Service)についてのセッション。都市型と地域型の成長モデルの違いが議論された。


「Women in Tech」のセッション。女性の働き方がプラットフォーム上でのコミュニケーションで改善された事例などを紹介。セールスフォース共同創業者のパーカー・ハリス氏も登壇。


ダイバーシティを推進するセールスフォース。女性やLGBTQ、障害者の社内グループがあり、さまざまな社会貢献活動をしている。


1日目のクロージングアクトを飾った歌手のクリスタル・ケイ。長い一日を終えた来場者たちを力強い歌声で鼓舞した。最終曲で会場はオールスタンディングに。


上記でも紹介した、Salesforce World Tour Tokyo のメインセッションは、Salesforceウェブサイトにて動画で観ることができる。
https://www.salesforce.com/jp/video/?d=cta-hp-promo-86

Promoted by セールスフォース / text by Madoka Takashiro / photographs by Kiyoshi Hirasawa / edit by Akio Takashiro

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