これは産業転換・解体によって既に深刻な影響を受けている地域にとっては大きな経済的・社会的インパクトをもたらすだろうが、スペインのエネルギー供給網の脱炭素化へ向けた取り組みにおいては重要な第一歩だ。スペインでは他に8カ所の石炭火力発電所が閉鎖を発表しており、最後の2施設は間もなく操業を停止する予定だ。
スペインの石炭火力発電所が相次いで閉鎖している理由は、もはや収益を上げられなくなったからだ。欧州連合(EU)は過去1年のうちに、二酸化炭素の排出権の価格を1トン当たり16ユーロ(約1900円)から25ユーロ(約2900円)へと6割近く引き上げた。これに、スペインのいわゆる「グリーンセント」税も加わり、石炭火力発電は、補助金を差し引いたとしても風力や太陽光よりかなり高コストになっている。つまり、今や再生可能エネルギーは石炭よりも安価なのだ。
スペインの石炭火力発電所の多くは、国内の豊富な“汚い”石炭を活用すべく1970年代に建設された。当時は二酸化炭素の排出はささいな問題とみなされおり、将来への影響は理解されず、考慮されることすらなかった。1990年代になって、国外から輸入した質の高い石炭を混合できるように改修された発電所もあった。しかしそのような転換も20年前にピークを迎え、褐炭が使われなったために多くの炭鉱は閉鎖された。
アスポンテス火力発電所は欧州でも特に大きな汚染源となっており、これまでに温室効果ガス排出量の削減のため2億ユーロ(約240億円)以上が費やされてきたにもかかわらず、利益を上げられる水準まで汚染レベルを改善できずにいる。雇用を守るために採算の取れない発電所の寿命を延ばすことは、持続可能ではない。ましてや、人類の滅亡につながりかねない気候の非常事態に貢献しているのであればなおさらだ。
企業の閉鎖に伴うストライキや暴動、失業を喜ぶ政府などないだろうが、私たちは閉鎖の裏にある真実を理解する必要がある。私たちにはもはや時間は残されておらず、汚染行為を持続するために環境を汚染し続ける余裕などないのだ。
「でも他の国は続けている」や「汚染の原因は他にもある」という言い訳は通用しない。温室効果ガスは、私たち全員が住む地球の大気に排出され、私たち全員を殺そうとしている。重要なのはリーダーシップを示し、各国に排出量削減を呼びかけることだ。