ビジネス

2019.10.04

「吸い上げ式」経営が、社員の可能性を解き放つ

資生堂 代表取締役社長兼CEO 魚谷雅彦 


原点は、日本コカ・コーラ時代にある。魚谷は1994年、CMOとして招かれ、「ジョージア」や「爽健美茶」を人気ブランドに育てあげた。しかし、突然、営業本部長への異動が決定。複雑な社内政治の産物だった。

「やったことが評価されないなら辞めてやろうと辞表も書きました。でも翌日、営業部門に挨拶に行って気が変わりました。社長は『営業はお客様のかばん持ちしかしていない』と軽視していましたが、本当にそうなのかと。『社長の見方が変わるくらいの営業にしたくないか』と問いかけると、みんなやりたいと言ってくれまして」

現場の声が組織を強くするという信念も、このとき生まれた。従来の営業は、企画部門がつくったプランを現場で実践する「落とし込み式」。しかし、もっとも顧客に近いのは現場であり、本来は現場起点で立案したほうがマーケットの変化に対応できる。魚谷は営業部門から企画部門へ逆アプローチする「吸い上げ式」への変更を目指して、部員を鍛え上げた。
 
1年半後、営業部門が経営陣にプレゼンする機会を得る。3日間かけて行った全17地域・部門分のプレゼンは経営陣を驚かせた。営業部員たちもダイヤの原石だったのだ。

「社長は情に厚い人でね。打ち上げに駆けつけて『世界中のコカ・コーラでこれができる営業部門はここだけ。1年前に言ったことは撤回する』と頭を下げてくれました」

資生堂で業績回復を果たしたいまも、人の能力を解放・成長させるための投資は惜しまない。18年10月に社内英語公用語化をスタートさせて、一時廃止されていた海外MBA留学制度も復活させた。

自身も成長を止めるつもりはない。

「毎朝30分ジョギングしながらポッドキャストでABCやCNNを聴いてます。グローバルで私にレポートする役員6人のうち、4人が外国人。彼らに『マイボス』と思ってもらうには、もっと英語がうまくならないと」

好業績を受け資生堂は中計の目標を売り上げ1兆2900億円、営業利益1500億円に上方修正した。光り輝くダイヤをさらに磨くとどうなるのか。魚谷の手腕に注目だ。


うおたに・まさひこ◎1954年、奈良県生まれ。同志社大学卒業。米コロンビア大学経営大学院にてMBA取得。日本コカ・コーラで社長、会長職を歴任する。2014年4月、140年以上の歴史をもつ資生堂で初の外部招聘として社長に就任した。

文=村上敬 写真=間仲宇

この記事は 「Forbes JAPAN 空気は読まずに変えるもの日本発「世界を変える30歳未満」30人」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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