小橋:ただ、僕は俳優をやっていた間、変わってしまいました。世の中が自分に何を求めているかというところから逆算して、自分のやるべきことを考えるようになって……。
あの時期の僕は、「want to(~したい)」ではなく、「have to(~しなければならない)」で頭がいっぱいになって、外に対して閉じこもったんですね。食事に行くときも、自分の存在がバレないように個室のある店に入ったりして。
杉山:芸能人は一般的には華やかな勝ち組という強者的イメージが強いけど、実際には日常生活を送りづらいマイノリティという側面もすごくありますよね。コンビニでちょっとした買い物をするときも周りを気にしなきゃいけないし、気軽に外でご飯を食べる場所もない。
NPO法人・東京レインボープライド共同代表理事 杉山文野
小橋:ホントにないです。でも、27歳で休業して世界を回ってみたら、行く場所ごとにそれはもういろんな感覚があって、当時の僕からしたらみんな常識外でした。
ニューヨークに行ったときなんて、街中で急に歌いだしたり踊りだしたりする人が普通にいる。
「ここで歌っていいとか踊っていいとか、この人たちの常識はいったいどこから来るんだろう?」と思って、その後、怖くなりました。「今までの自分は作られてたんだ!」って。
本当は自分だって歌ったり踊ったりしていいのに、しちゃいけないと思い込んでいたことに気づいたから。
杉山:まさに「want to」じゃなくて「have to」。
「気をつかう→気にする」が生む同調圧力
小橋:最近の流れを見ていても、日本人は和の心、調和の精神を持っているはずなのに活かされてなくて、むしろ真逆の方向に動いている。“気をつかう”ことが“気にする”ことにつながって、それが同調圧力になっちゃうんですね。
杉山:同じものを食べて同じものを見て「おいしい」とか「きれい」とか言っても、感じているものは人それぞれで違う。「同じ世代だから、同じ日本人だから、わかりあえるはず」という前提は苦しいですよね。
ダイバーシティを実現させていくうえではどこかでそのマインドセットをアップデートしなければいけない。「わかりあえるはず」から「わからないからこそ、どう共存していこうか」と、アメリカではないけれど、わかりあえないことを前提にしないと。
小橋:「言わなくてもわかるだろう?」というのが同調圧力になる。周りと同じようにしていないといけないから本当の自分を見出せないし、本当の自分を見出せないと他人を認めるのも難しい。
「わけへだてなく」というのは、まず自分を知らないとできないことです。