ビジネス

2019.10.01

サラリーマンでも発信者になれる。企業内インフルエンサーを歓迎せよ

徳力基彦氏(写真=小田駿一)


個人でも使えるようになった「プル」型のコミュニケーション

僕はコミュニケーションについて「プッシュ」のコミュニケーションと「プル」のコミュニケーションを分けて考えているのですが、ソーシャルメディアによって個人が「プル」のコミュニケーションを使えるようになったことがすごく大きいことだと思っています。

例えば、代表的なプッシュのコミュニケーションは電話ですね。僕、電話会社出身なんですけど、電話はすごく嫌いなんです。結構暴力的なコミュニケーション手段とも言えるのではないでしょうか。昔は留守電も発信番号を表示する仕組みもなかったので、例えば風呂に入ってるときに電話が鳴ったら、びしょびしょになって取りに行くしかなかった。ひょっとしたら好きな女の子からの電話かもしれないから、取らないわけにいかないんですよね。

メールやチャットが出てきて、すぐに返事をしなくていいことで、ちょっと楽になりました。ただ、やはりこれらも「返事をくれ」というコミュニケーションなんですよね。プッシュのコミュニケーションです。

僕は、ブログやSNSはプルのコミュニケーションだと定義しています。つまり、返事を求めていないんですよね。これはかつてはマスメディアにしか許されていなかったコミュニケーションでした。例えば新聞や雑誌など「ここに書いたから見ておいてね」「よければ読んでください」というもの。このコミュニケーションを今まで一般人がするのは、ほぼ不可能だったんですよね。

ブログやツイッターが出てきて、「ここに書いたから、よければ見てね」というコミュニケーションを個人ができるようになったことで、個人のメディア化が進み、影響力を持てるようになり、インフルエンサーが生まれる素地になりました。

かつてタレントが日本全国に知られるためには、まずは芸能事務所に見いだされてデビューしないと難しかったと思います。個人の力をメディア化しようと思うと、間に必ず組織が入るという構造でした。

でも、今は学生でもツイッターやユーチューブを始めれば、たまたまアップした投稿が日本全国、下手したら世界の人に見てもらえる可能性が出てきました。

──誰でもインフルエンサーになれる可能性を持っているということですね。

そうですね。ただ逆説的ですが、インフルエンサーって、「インフルエンサーになりたい」と目指すものではないと僕は思っています。まず、自分がやりたいことや伝えたいことがあって、今まではメディアの力を借りないと伝えられなかったけど、例えばずっとそれをツイッターとかユーチューブとかで発信していると、それによって有名になれるかもしれない時代なんです。

その成功事例の人たちをインフルエンサーと捉えたほうがいいと思うんですよね。
インフルエンサーになりたいと思っていたからインフルエンサーになったわけではなく、好きなことをずっと続けているから、周りの人に影響力をもつ存在になれるわけです。

マスメディアの時代は、情報発信自体が本当に限られた人たちしかできない世界だったので、有名人になるための方程式がある程度ありました。一方で、誰でも個人で情報発信ができるようになった結果、誰でも影響力を持てるかもしれないという時代は、個人的にはすごく面白いと思います。
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構成=林亜季、写真=小田駿一

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