世界から渋滞を追放するイスラエル発「信号アルゴリズム」の実力

エルサレムの旧市街の壁近くでポーズを取るアクシリオンCEOのオラン・ドロール(左)と、創業者のイラン・ウェイツマン(右)。背後を走るエルサレムのライトレールに同社の信号制御技術が使われている。


既存の道路インフラを用いるため、最低限の費用で信号のスマート化が行える。アクシリオンはこのソリューションを10年間のメンテナンス費用込みで提供し、1都市あたり平均400万ドルで提案する。

公共交通を軸とした「ウォーカブル」な都市づくりに関しては、世界各国で研究と実証実験が行われているが、アクシリオオンはイスラエル政府の「テクノロジーのゆりかご」の中で技術を磨き、米国に進出した。運輸省でアクシリオンの担当を務めるヒラ・ハダットはこう話す。

「ほとんどの国の政府職員は大手企業とのみ仕事をしたがるが、イスラエルでは政府が率先してスタートアップに実験をさせ、技術開発を助ける。例えば、自動運転分野ではモービルアイのほか、ロシア企業のヤンデックスにもテスト許可を与え、政府は走行データを入手している。なぜならイノベーションこそがこの国の成長を支えてきたからだ」

エルサレムの公共交通プロジェクトには当初、反発の声もあったという。「車を持つ人々は不満を示し、商店主は客足の減少を懸念した。しかし、トラムが整備されると街の中心部に歩行者の賑わいが生まれ、大気汚染も軽減できた。交通のスマート化やEV化は社会を前向きに変える」

道路に「ダイナミックプライシング」を導入

アクシリオンが本拠を置くのはテルアビブで最も高い高層ビル「アズリエリ・サロナタワー」だ。フェイスブックやグーグル、アマゾンなど米国の大手IT企業が軒並み入居する61階建てのビルからは、地中海沿いの美しい町並みが見渡せる。

しかし、足元を見下ろすと目につくのが世界最悪レベルとも言われる激しい交通渋滞だ。大通りを埋める渋滞の列を見ながらドロールは、「今から10年経てば、世界の都市交通は激変する」と話す。

「自動運転車やコネクテッドカーの普及で、V2X(Vehicle-to-Everything)と呼ばれる自動車が道路インフラと会話するシステムが実現し、都心部への自家用車の乗り入れには追加料金が必要になる。ロンドンではすでに渋滞税が導入されたが、アクシリオンの技術なら、道路の需要と供給に合わせて料金を変えるダイナミックプライシングが可能になる」

イスラエル政府は石油燃料への依存度を2025年までに6割削減するゴールを掲げており、自動車のEV化は必須の流れだ。

「世界の国々でEVが完全に普及すれば、行政側はガソリンからの税収を失う。EVやロボットタクシーの普及に備え、アクシリオンは都市に新たなマネタイズ手段を提供する」(ドロール)

昨年10月、テルアビブで「スマート・モビリティ・サミット」が開催された。世界の有識者が集まる会で、ドロールは「米オバマ政権で運輸省副長官を務めたジョン・ポーカリが当社のアドバイザリボードに加わった」と発表した。

また、同じく顧問役に就任した北米最大の公共交通オペレーターの「トランスデブ・ノースアメリカ」元CEOのマーク・ジョセフが、アクシリオンの試験プログラムをワシントンDCやラスベガスなどの大都市に拡大するプランを説明した。
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取材・文=上田裕資 写真=Jonathan Bloom

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