世界から渋滞を追放するイスラエル発「信号アルゴリズム」の実力

エルサレムの旧市街の壁近くでポーズを取るアクシリオンCEOのオラン・ドロール(左)と、創業者のイラン・ウェイツマン(右)。背後を走るエルサレムのライトレールに同社の信号制御技術が使われている。


この仕組みを2014年にはイスラエル北部の都市ハイファのバス交通に広げた。しかし、会社が成長期を迎えるのはまだ数年先だった。

「その頃、スマートシティやスマートモビリティというアイデアを投資家に話しても、まるで宇宙人を見るような目をされたよ」とウェイツマンは笑う。当時は国連が「ウォーカブル・シティ(歩きやすい街)」という理念を提唱し始めたばかりの頃。まだ世間には、人と車のゾーンを分けた「ウォーカブル」という概念が浸透していなかった。


アクシリオンはエルサレムのライトレールに信号制御技術を提供している。イスラエル運輸省のヒラ・ハタットは「政府が率先してスタートアップに実験をさせ、技術開発を助けている」と語る。

一方でその頃、ウーバーは世界各地に進出し、イスラエル発の交通ナビゲーションアプリ「Waze(ウェイズ)」がグーグルに買収され、EV(電気自動車)分野ではテスラが台頭し、モビリティ領域のイノベーションは加速しつつあった。
 
事業拡大の計画を20年来の知人だったドロールに持ちかけたのは2017年。自動運転技術のイスラエル企業「モービルアイ」が、インテルに153億ドルで買収され、世界を驚かせた年だ。

「この会社をグローバル企業にしないか」というウェイツマンの提案に、ドロールは飛びついた。彼はマイクロソフトを退社後、テルアビブの超高層ビル群を運営するイスラエル最大の不動産デベロッパー「アズリエリグループ」の最年少役員を務めていた。ドロールが言う。

「都市をスマート化し渋滞を減らせば街のエコシステムは激変する。マイクロソフト時代の経験や都市開発の知見を活用し、この会社を成長させようと考えた」

米国の「壊れた交通インフラ」を変える

コアとなる技術を完成させたら、まずは米国市場に向かうのがイスラエルのスタートアップの習わしだ。2人はニューヨークに向かい、現地で投資家や外部役員の候補者を探し始めた。かつてのウェイツマンと同じ課題を抱えた交通エンジニアが現地に居ることを知り、「イスラエル政府公認の信号制御システム」を売り込んだ。数カ月後には5番街でテストプロジェクトを実施し、成功を収めた。

米国の公共交通は時代遅れなインフラで遅延が日常化し、利用者が減り、収支が悪化する悪循環が続いている。そんな中、NY市長のビル・デブラシオは今年4月、市内のバスの速度を2020年末までに25%アップさせる計画をぶちあげた。
 
来年の米大統領選の有力候補にあげられるデブラシオが「公共交通優先」を打ち出したことは、アクシリオンにとって大きな追い風だ。
 
この辺りでもう一度、同社の技術を解説しておこう。アクシリオンのソフトを導入すれば、交通信号の制御をデジタルで一括管理し、道路状況に応じた最適化が可能になる。さらに、交差点に近づく車両をリアルタイムで検知し、AIが最適なタイミングで青信号を与えるスマート化も行える。車両の検知にはハイファのBRTでは道路に埋め込まれたセンサーを、ニューヨークではバス内のGPSや無線ネットワークを用いている。
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取材・文=上田裕資 写真=Jonathan Bloom

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