美術館の庭では、1960年代に生産された宇宙船のようなモバイル住宅「Futuro(フトゥロ)」が、毎年5月から9月まで一般公開されている。過去からきた未来の「宇宙船」といったところだろうか。
宇宙船のような形のモバイル住宅「フトゥロ」
フィンランドの建築家マッティ・スーロネンによるもので、簡易式のトイレ、キッチン、ソファベッドが付いており、とても移動式とは思えない大きさだが、当時はヘリコプターに吊るされて運ばれることもあったとか。
世界中で人気になったが、オイルショックの影響で生産が中止されてしまったという。公開中は中にも入ることができるため、往年のファンにとってはたまらないだろう。
フトゥロが設置された庭と美術館外観。建物の壁一面の窓が特徴的。
美術館の窓は採光が十分に取れるように、壁一面が大きな窓になっている。前出のオタニエミ礼拝堂もそうであったように、これはフィンランド建築のひとつの特徴だ。私が訪れた初夏はとにかく気持ちよかったが、冬には木立ちが雪化粧した景色も見られるのだろう。
EMMAでは、テキスタイルとアートの可能性を紹介する「Interwoven(織り交ぜ)」展も開催されていた。布にスマートフォンをかざすと、アプリ上に生地から動物が飛び出てくる仕掛けなど、テキスタイルと最新テクノロジーとの融合を図る作品も多く見られた。「マリメッコ」をはじめとしたテキスタイルデザインでも著名なフィンランドらしく、意欲的な展示が目立った。
テキスタイルにスマートフォンをかざすと、アプリ上には動物が現れる(筆者撮影)
手元にある資料には、展示について日本語でこう書かれている。「時を越えてぬくもりと安心をもたらしてくれる織物は、人類にとっての大切な記憶の記録であり、代々引き継がれる古代からの技術と物語の結晶なのです」と。
古い物を尊重し、現代的な要素を取り入れつつ発展させていく。日本でも、藍染やデニム、ウールなどいくつものテキスタイル産地があり、斜陽産業と言われながらも、ブランド化やアーティストとのコラボレーションなど、各地で新たな展開を見せている。
国立美術館アテネウムで感じた北欧と東アジア、フィンランドと日本のアートの世界が、互いに影響をされてきたように、両者がつながったときに、未来ではどんなアート作品や動きが生まれるのだろう。ヘルシンキで目にした展覧会は、そんな期待感で胸がいっぱいとなるものだった。
「フィンランド幸せ哲学」連載はこちら> (第一回) (第二回) (第三回)