実は日本とのつながりが深い。ヘルシンキと界隈の美術館探訪|フィンランド幸せ哲学 vol.4

新しい美術館アモス・レックスがあるヘルシンキ市内


地下に広がる美術館アモス・レックス

ヘルシンキ中心部にあるアモス・レックスは、2018年夏にオープンした、地下に広がる新しい美術館だ。開館時には、日本のチームラボが「Massless(質量ゼロ)」をテーマに体験型のデジタルアートを発表し、連日多くの人でにぎわったという。

普段、行列をつくることのないフィンランドの人たちが、列をなして並んだことで話題になった。現代アートの世界に浸りたいのなら、ぜひ足を運びたい場所だ。


アモス・レックスの外観。新しい建物だが、街中を走るトラムにもよく似合う。

1936年に建てられた歴史ある「ラシパラッツィ(ガラス宮)」という建物は、かつては映画館やカフェ、レストランが軒を連ねて入居していた複合型商業施設だった。老朽化が進んで取り壊しも考えられたが、アモス・レックスとして生まれ変わった。建物自体は、前衛的な雰囲気があるが、どこか懐かしい。伝統的なラシパラッツィの面影を損なわないように、慎重にリノベーションされたそうだ。

私見だが、ヘルシンキの建物はどこも「リノベーション上手」だと感じた。というのも、訪れた美術館やカフェなどは現代的なデザインが取り入れられつつ、雰囲気は古く落ち着いていて、安心感があるのだ。モダンであり、レトロでもある。そんな不思議な魅力がある。

最近、日本でもリノベーション物件が注目されるようになり、「スクラップ&ビルド」の文化が徐々に見直されてきている。歴史を重ねながら、モダンな雰囲気を巧みに取り入れる手法は、北欧デザインに見習いたいところだ。


アモス・レックスの内観。モダンであり、レトロでもある。

EMMAの「Interwoven」展 で未来を透視する

2006年にオープンしたEMMA―エスポー近代美術館は、近現代の美術とデザインを中心にした美術館。ヘルシンキ中心部から地下鉄で15分ほどのエスポー市にある。

最寄り駅のタピオラ駅では、巨大な女の子のオブジェが迎えてくれる。平日の夕方だったせいか、人は少なかった。少し足を伸ばして出かければ、静かな環境で新たな発見があるだろう。


最寄りのタピオラ駅では、巨大な女の子のオブジェが迎えてくれる

ここでは2人のフィンランドを代表するデザイナーの作品が充実している。しかも、その2人は夫婦だ。フィンランドの陶芸を刷新したセラミック・アーティストのルート・ブリュック(1916-99)と、夫で著名なガラス作家のタピオ・ヴィルカラ(1915-85)。

ブリュックは、フィンランドの名窯アラビア製陶所の専属アーティストとして約50年活躍し、色鮮やかな青い蝶の陶板などが有名。ヴィルカラは、同国のインテリアデザイン企業イッタラと40年間協力関係にあり、現在も遊び心あるデザインが愛されている。

EMMA―エスポー近代美術館では、常時、この2人ののスケッチ、アーカイブ資料、写真などのコレクション約2000点が一般公開されている。保管状況や、窓越しに修復や整理の作業を見学することもできる。


祖父母であるルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラを回想するペトラ・ヴィルカラ

取材時には、孫のペトラ・ヴィルカラが「2人とも仕事熱心で、家族や友達をすごく大事にする人。お互い支え合いながら仕事をしていた」と、彼らの思い出を語った。祖母であるルートがテキスタイルの仕事をしていた時、ペトラは隣で遊んでいたが、集中力が高く、家族に囲まれながらも制作に励んでいたという。

ちなみに、日本でも、2020年まで大規模なルートの巡回展「ルート・ブリュック-蝶の軌跡」展が開催されており、各地でブリュックの作品を目にする機会がある。今年10月20日までは伊丹市立美術館で、20年4月25日~7月5日は岐阜県現代陶芸美術館で、7月18日~9月6日は久留米市立美術館で開催され、その後は新潟市美術館にも巡回する予定だ。
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文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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