今回の旅を通じて、日本とフィンランドとの共通点や違いに着目し、私たちが学べるヒントを探った。4回目は、ヘルシンキとその近郊の美術館を巡って、互いに影響し合う両国の美学について考えた。
北欧と東アジアのアートの関係性を表す「Silent Beauty」展を紹介する担当者
国立美術館アテネウムでの「Silent Beauty」展
フィンランドを代表する国立美術館アテネウムでは、「Silent Beauty」をテーマに、北欧と東アジアのアートの関係性を表す大規模な展示が、10月6日まで開かれている。
第二次世界大戦以降の作品を中心に、絵画から、陶芸作品、テキスタイル、建築まで、展示内容は幅広い。フィンランドやスウェーデンと、日中韓のアーティストの作品が、季節や色合いなどさまざまな分類で、紹介されている。なかでも、フィンランドと日本の国交樹立100周年を記念して、とくに日本のコレクションも充実していた。
色合いや作風ごとに分類されている展示
アテネウムでは、2016年にも「ジャパノマニア」という展覧会が開かれている。
1860年代に日本が開国したのち、浮世絵をはじめとした日本の美術品が海外に紹介され、各地でブームになったことから、北欧においても1875年から1918年にかけて日本趣味の芸術に注目が集まった。「ジャパノマニア」は、この潮流をテーマとした展示だったが、今回の「Silent Beauty」展も、この展覧会の流れを汲んでいるという。
北欧と東アジアのアートは、「日常の美しさと自然とのつながり」という点で共通点がある。形や色合い、素材の使い方など、両者の美意識は互いに影響を受け合っているのだ。
日本では、思想家であり美学者でもある柳宗悦が、1925年に「民藝」という言葉を生み出し、民藝運動を展開した。柳は1929年に初めてストックフォルムを訪れた際、野外博物館のスカンセンなどから大きなインスピレーションを受け、1936年に手がけた日本民藝館にもそれを生かしたとされる。
柳は1952年にもスウェーデンを再訪。さらにノルウェイ、フィンランドにも足を延ばし、現地で工芸や民藝のあり方を探ったという。今回の「Silent Beauty」展では、その柳が手がけた日本民藝館の所蔵作品も並んでいる。
今回の展示では、北欧のアーティストたちが、どのように日本の工芸品から影響を受けているのかも興味深い。フィンランドの陶芸家が日本の楽焼から着想を得たセラミック作品や、日本の美学である「わび・さび」なども紹介されている。
逆に、近年、日本人アーティストが影響を受けた例として、建築家の安藤忠雄が手がけた北海道・トマムの「水の教会」が紹介されていた。ヘルシンキのアアルト大学内にあるオタニエミ礼拝堂を参考にしたと言われるこの教会、大きな窓で自然の光や風景を取り入れるところなど相通ずるものを感じる。
紹介文を見なければ、北欧か東アジアか、どちらのアーティストが手がけた作品かわからないくらい、類似点がある作品が多く、互いに芸術の技法や美学を学び合ってきたことが感じられた。
美術館だけでなく、ヘルシンキ市内にも、大きく毛筆で書かれた「美」という文字とともに、「SILENT BEAUTY」という言葉が映し出された電子パネルを見かけ、東アジアとのつながりが強調されていた。
美術館内だけでなく、ヘルシンキ市内でも「美」という毛筆で書かれた文字が見られた。(筆者撮影)