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2019.10.02

異能のアンドロイド研究者「ミスター・ロボット」が定義する『心』とは

石黒浩教授 by Gettyimages


━━あなたが責任を持って進めているような開発が、世界の他の場所でも同じ形式で起こる可能性はあるでしょうか?

いいえ。アメリカの大学からいくつか誘いがありましたが、私は働きたいと思いませんでした。ロボットの研究資金を得るのはアメリカでは難しいからです。それから、政府の在り方もありました。あちらでは、ヒエラルキーを維持したがり、人間とロボットのどちらが優れているかが議論になります。日本ではそういうことをしません。オートメーション化と同様に、機械やロボットは日本中どこにでもあります。

━━今後、ロボットは社会でどんな役割を果たしていくのでしょうか?

あらゆることが可能です。私からの質問はこれです。「人間は社会でどんな役割を果たしていますか?」 人間とサルの違いを知っていますか? 技術です。技術がなければ、人間とは言えない。サルには電子機器は使えません。

━━では、ロボットの開発を始めた頃は、具体的な目標はなかったということでしょうか……?

ええ。好奇心しかありませんでした。もしも具体的な目標や目的を定めていたら、兵器を開発していたかも……というのはもちろん冗談ですが、人智に関わる分野においては、具体的な目標を持つべきではないと思います。危険すぎますから。私たち科学者にとって最も重要な仕事は、人間に関する新しい知識を生み出すことです。

━━今後、アンドロイドは経済に関係してくるでしょうか?

はい。アンドロイドは経済全体を助けるでしょう。新しい技術は常に力になります。それが私たちの社会の原則です。新しい知識と新しい技術は、われわれの暮らしを常によりよくします。

━━アンドロイドは大量生産に対応できるでしょうか?

そのためには、誰かにアンドロイドを1万体注文してもらわなければなりません。それが可能なら、答えはイエスです。大量生産のシステムを構築できます。

━━あなたは以前、5歳の女の子のジェミノイドを作って、本人の隣に並べましたね。反応はどうでしたか?

はい、私の娘のジェミノイドでしたが、娘は泣いていました。あれは初めて作ったアンドロイドで、動きがなめらかではなく、なんだかゾンビのようでした。

━━他の科学者からどう見られるかを気にされますか? エキセントリックな人だと思われているようですが……。

私はごく普通の人間です。自分と人生と家族については面倒をみますが、それ以外にはあまり関心がありません。

━━次のプロジェクトの計画はありますか? それともアンドロイドの開発を続けますか?

わかりません。とにかく、別のアプローチを考えています。やりたいと思っているのは、ソーシャルネットワークのようなことですね。アンドロイドの手ごたえがあまりにも大きいので、これ以上の挑戦を探すのが難しいです。異なる観点から、さらに多くの人間と人間らしさを扱う方法を考えています。アンドロイドは個人ですが、人間は社会的です。人のこの、社会的側面をさらに探求する方法を考えています。


石黒浩◎大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長。著書に、『こころをよむ 人とは何か アンドロイド研究から解き明かす』(2019年、NHKシリーズ) 、『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』(池上高志氏との共著、2016年、 講談社刊)、『アンドロイドは人間になれるか』(2015年、文春新書) 、『ロボットとは何か――人の心を映す鏡』(2009年、講談社現代新書) ほか多数。

*この記事は「Artificial Intelligence」誌2018年2月号に掲載されたものである。

文=Heidi Aichinger、Elisabeth Woditschka 翻訳=塙貴子 編集=石井節子

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