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2019.10.02

異能のアンドロイド研究者「ミスター・ロボット」が定義する『心』とは

石黒浩教授 by Gettyimages


━━人間を知るためにロボットを研究したい、という着想はいつ生まれたのですか?

小学生だった10歳のときです。ある大人に「ほかの人がどう思うか考えてみなさい」と言われたのがきっかけです。私にとっては決定的な体験でした。だって、心底驚いたんです。他人に心や思考があることを、それまで考えてもみなかったので。大人になって、このときの体験が自分に影響を与えているのだと気づきました。

━━ロボットを使って人間を探求するとは、めずらしいアプローチですね。

いいえ、ごく自然なことです。すべての人が共通して持っている根本的な疑問は、「心と頭脳と思考はどう機能するのか?」ということなんです。私がロボットを通じてこれらの疑問を追究しているのは、たまたまコンピューターサイエンスを勉強していたからです。私が大学生の頃、この分野は非常に人気がありましたし。

━━あなたのアンドロイドの機能について教えてください。

アンドロイドには多くのセンサーを使っているので、非常にうまく機能します。もちろん、人間による経験や知覚とは大きく異なりますが。非常に洗練された人間の感情の世界や経験を、アンドロイドで真似しようと試行錯誤しています。

私は人間の持つ最も重要な特徴はコミュニケーション能力だと考えているので、コミュニケーションに集中的に取り組んでいます。たとえロボットにセンサーと認知能力と感情を与えたとしても、コミュニケーション能力を持たないロボットを「人」として認識するわけにはゆきません。だからロボットにセンサーばかりむやみにインストールしても無駄です。アンドロイドの機能を改善するためには、まずはわれわれ研究者が基礎的な知識を得る必要があるんです。

━━それは、現存するハードウェアに限界があるという意味でしょうか?

多くの点で、ハードウェアはOKです。改善が必要なのはソフトウェアです。

━━つまり人工知能ですか?

はい。 たとえば、言語を例に出しましょう。人は脳内の記号を操り、それらを言語として使います。この人間の思考プロセスをディープラーニングで再現することはできません。

━━人間の脳の解明が十分でないから、真似ることができない?

ええ、まだわからないことがたくさんあります。中には再構築できる機能もありますが、人の「脳」のキーファクターと仕組みはまだ誰にもわかっていません。今わかっているのは、さらに多くの研究が必要だということだけ、そして現在、焦点を当てているのが知性です。そして、意識や(体の重要性)といった問題のほうが、さらに重要な可能性もあります。

━━いつか、すべてが解明されるのでしょうか?

いいえ、それは決してありません。
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文=Heidi Aichinger、Elisabeth Woditschka 翻訳=塙貴子 編集=石井節子

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