ビジネス

2019.09.30

急成長するスウェーデンの組織が貫く「社員は25人以内」というルール

Vinn Gruopは「小規模でアジャイルであること」に信念を持つ (c)Vinn group


そして、このグループの最大の特徴が、25人の小さなスタートアップそれぞれの強みや専門性をうまく組み合わせることで、イノベーションを生み出すバリューチェーンをデザインしていることだ。

たとえばリサーチや戦略デザインを専門とする企業、プロダクトデザインやシステムデザインをする企業、そして品質管理やカスタマーサービスを専門とする企業……というように、いわゆる“川上から川下まで”の行程それぞれに特化した企業が、重複することなく存在している。



ともすれば1つの企業内にまとめられてもおかしくない様々な役割を、あえて分割し、別個の企業として独立させてからコラボレーションをさせることで、自律的でスピード感のある動きを促す。同時に、それを“縦割”にさせずに“横串”のコラボレーションを生み出す様々な仕掛けをデザインしておくことによって、共創的にイノベーションを生み出すことにつなげている。

組織が硬直しているがゆえにイノベーションが生まれにくいという悩みを抱える企業にとって、この「分解」と「横串」は、なんらかのヒントが得られる組織システムではないだろうか。


リサーチャーやエンジニア、デザイナーなどがオープンな環境で共創している(c)Vinn Group

職人的な分業モデルに学ぶ

思い起こせば、日本でも古くからこうしたシステムは採用されている。例えば伝統工芸の「西陣織」は、意匠、糸染、機織りといった各工程の職人仕事が分担されているし、現代の生地を代表する「岡山デニム」は、布づくり、染色、縫いなどでそれぞれ専門職人が作業に当たる分業で強いブランド力を持っている。

大企業やスタートアップは、こうした個々の主体性とコラボレーションによる一体性を両立させるモデルから学ぶところも大きいのかもしれない。

もう一点、Vinn Groupのシステムと比較すると、バリューチェーンのデザインにおける日本の課題も見えてる。日本は、川中である「ものづくり」に偏っていることが多く、リサーチなどの川上の領域、ブランド・コミュニケーションのような川下の領域が弱いように感じられる。またITセキュリティなどの並走する領域までカバーする全体的なデザインも、検討していく余地があるのではないだろうか。

たとえば一社ではまかなえないような規模のプロジェクトに対し、仮想バリューチェーンを想定し、中小企業が連携していくといったやり方にも応用できるかもしれない。

機動力と統合力を両立させる企業間連携をデザインする。ひとつの事業を入り口から出口まで戦略的に一気通貫で実践する。こうしたVinn Groupのスタイルは、イノベーションの推進を考える際のひとつの素材となりそうである。


本記事の執筆担当者 >>小島一浩(こじま かずひろ)
産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム チーム長。内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)センター員、知能システム研究部門 統合知能研究グループ所属主任研究員を経て現職。東日本大震災後、民間企業と産総研絆プロジェクトを立ち上げ、インフラ自立型トレーラハウスに住みながら生活サービスの構築を行うアクションリサーチに従事。復興まちづくり組織(一社)気仙沼市住みよさ創造機構の設計・設立に関与するなど、社会システム研究に従事。専門は、システム工学。

文=小島一浩

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