レイプ犯への反撃を通じて、彼女が取り戻したものとは

イザベル・ユペール(Photo by Gabriel Olsen/FilmMagic)


しかし、彼女がパトリックに惹かれたのはなぜだろう。金融関係のエリートサラリーマンで、瀟洒な家に住み、信心深く美しい妻との仲も悪くなさそうだ。ハンサムで親切でスマートな物腰は、どこから見ても非の打ちようのない好人物に見える。

近所に変質者が出たという噂に、心配したパトリックが初めてミシェルの邸宅内に入る場面がある。身体が接近したことでふとミシェルが彼の瞳をじっと覗き込むシーンは、次の瞬間には何事もなかったかように流れてしまう。

しかし、この時彼女は気づいたのだ。パトリックが、何かをごっそりと欠落させた、自分の父と同種の人間であることを。

父の同類を発見したと思ったからこそ、彼女はパトリックに強い関心を抱き、二人の関係は暗黙のうちに進行することとなった。パトリックにとっても、ミシェルは必要な存在だった。

不幸にも出会ってしまった、闇を抱えた二人。ミシェルにとってパトリックは、回帰してきたトラウマそのものとも言えるだろう。

彼女が最終的に救われるには、彼を“克服”する他に道はなかった。パトリックとの最後の対決に至って彼女は、トラウマを植え付けたまま勝手に死んでしまった父を、自分の中でようやく葬り去るのだ。

すべての男たちがそれぞれふさわしい場所に収まった後、出会い直したミシェルとアンナ。その後ろ姿には、男との長い軋轢を乗り越えた女同士の、新しい関係性への希望が宿っている。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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