30年前に父親が引き起こした、おぞましくも凄惨極まる大事件。まだ10歳だったミシェルは父に支配され、利用されたばかりでなく、事件が大々的に報道されることによって、深い精神的外傷を負った。そのトラウマから彼女は、警察とメディアを忌避するようになった。
ミシェルは被害者であると同時に、事件の犠牲者たちの家族からは、加害者の肉親として恨みを買い続けてもいる。おそらく彼女は子供の頃から、自分の立場をいつも分裂したものとして受け止めてきたはずだ。同時に、そうした位相に自分を追いやった父への憎悪に苦しんできた。
普通の少女時代を過ごすことなく孤独の中で成長したミシェルは、不安定な心を守るため、他人に自分の内面を悟らせないような強面になったのだろう。母とのギクシャクした関係や息子への過干渉も、そうした心の武装からきているのではないかと推測できる。
一方で、自分の中に深い傷跡を残している父の、もしかしたら自分も受け継いでいるかもしれない暴力性を、別のものに変換し消費することも、一方的な傷つきに負けずに自己を維持していくために、彼女には必要だった。エログロ趣味のゲームの製作者になったのは、そうした心理と深く関連しているだろう。
離婚したリシャールは優しい男だが、ミシェルの傷を受け止めるには頼りなさ過ぎた。あまりに強い痛みを忘れるためには、中途半端な癒しより強烈な刺激の方が効果的だったりする。
モザイクのような性的欲求
親友の夫であるロベールとのセックスは、痛みを一時的に相殺する役割を果たしてはいる。しかし、終わりのない戦いに疲弊し、心の底では根本的な救済を求めているに違いない彼女にとって、彼はもはや退屈しのぎでしかない。
むしろ彼女の救いになりそうなのは、レズビアン関係のムードも漂うロベールの妻で親友のアンナの方では? と思わせるシーンもある。登場人物たちの性的欲望は、さまざまな形のモザイクのようにドラマのあちこちにはめ込まれている。
自宅で再度レイプ犯に襲われ、ミシェルを標的にした悪戯動画が社内メールに出回り、一体誰が彼女を狙っているのか疑心暗鬼が深まる中で、一層用心するようになったミシェルは、親切な向かいの住人パトリックと親しくなる。
会社では、自分を崇拝する若い社員ケヴィンに秘密裏で動画の出所を調べさせる一方、自宅で開いたクリスマスパーティで、パトリックにこっそりと誘惑のサインを送るミシェル。
さらに、母の突然の死、結婚した息子夫婦との決裂、またも現れるレイプ犯への反撃……と、事態は混迷の度を極めていく。