社会的養護の「その後」から考える、自立を強いない社会

ゆずりはは社会的養護の「アフターケア」を担う事業所で2011年に開所した


「自立」という言葉をやめたい

社会的養護にいる間のケア(インケア)も、退所する間際のケア(リービングケア)でも、必ず出てくる言葉がある。「自立」だ。そもそも「自立」とは何を指すのだろうか? それはずっと考えていたと、亜美さんは言う。

「自立って、何でもかんでもひとりでできるってことじゃない。小児科医の熊谷晋一郎さんが『自立とは依存先を増やすこと』と言っていたように、ときに支え、支えられながら、社会の中で生きていくことが自立じゃないのって思って、これまで私たちが思う自立の定義をみんなに一生懸命伝えようとしてたんですよね」

でも、「自立とは」と話せば話すほど、結局、“あっち”と“こっち”を線引きしているような気がした。それよりも「みんなが孤立しないために、私たちができることは何か」と考える方が、すごくスッキリしたのだという。

「“あっち側”の話としてしまうのではなく、“こっち側”でできることを考えたいなと思って、最近ではあまり『自立とは』と言わないようになりました」

誰もが安心して「居て」いい場所を作る

社会的養護を出た後の子どもたちは、仕事を見つけて一人暮らしする人が多い。自立と仕事とは、切っても切り離せないイメージだろう。しかし亜美さんは続ける。

「働くことは、その人が望むなら目標のひとつにしてもいい。だけど一方で、安心して生きていくことが維持できればそれでいいんじゃないかとも思う。私も最初は『自立』とか『社会復帰』とか考えてたけど、『復帰する』って、捉えようによっては『いまの自分がダメ』と聞こえる人もいる。でも、ジグザグしながらだって、生きているんだから、それでいいじゃんって思うようになってきたんですよね」

亜美さんの使う“それでいいじゃん”という言葉は、諦めろとか、適当に流すつもりで言っているのではない。「頑張って生きてきた自分に、少しでもやさしくできたらいいね」という思いが込められている。

「自立にゴールなんてないから、できるようになったらゆずりはとサヨナラじゃない。いつだって戻ってきていいよという気持ちです」


1階はジャム工房。キッチン設備も相応のものを入れて改装した

現在、ゆずりはでは毎週水曜日に、社会的養護を巣立った人たちが集える「サロン」という場所を開いている。予約不要で、利用料も取らない。初めての人も、毎週来ている人も、それぞれ好きなことをして過ごしている。お茶やお菓子をつまみながら顔見知り同士でおしゃべりをする人もいれば、ゲームをしたり音楽を聴いたり、ひとりソファで眠る人もいる。

サロンでは個別の相談は基本的に受けないが、一緒にいる中で時折、ポロポロといまの気持ちや状況が語られる。生活が不安定になってサポートが必要だとわかれば、別途、対応することもある。

イベントがあるわけでもないし、そこに来たからといって何かが解決する場でもない。毎週決まった日、決まった時間に開いていて、居ていい場所があるというだけだ。

「本当は私、居場所なんかやりたくなかったんです(笑)。ゆずりはを始めた当初は、私たちは誰も頼れない、どこにも行けない人たちの支援をするんだ!って意気込んでた。個別支援だけでいいと思ってたから、交通費を使って電車に乗って来られるような人たちのための場所をやる意味がわからなかった。

でもあるとき、支援している子が『いまはまだ行けないけど、いつかサロンに行ってみたいと思ってるんだ』って言ってくれて、来れない人にとっても、『いつかここに来たい』という居場所になっていたことに気がついたんです。居場所って、行けなくても『居場所』でいいんだって思った」
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文=矢嶋桃子

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