社会的養護の「その後」から考える、自立を強いない社会

ゆずりはは社会的養護の「アフターケア」を担う事業所で2011年に開所した


「自業自得」「努力が足りない」という人もいるだろう。でも、私がゆずりはで出会ってきた人たちは、決して「頑張ってこなかった」人たちではなかった。

むしろ、自分でなんとかしなければ、人に迷惑をかけてはいけないと、つたないながらに自分なりの頑張り方をしてきた人たちがほとんどだ。「自己責任」とか「人に迷惑をかけるな」という社会の声を誰よりも内面化しているのは、実は困っている人たち自身であるのだと私は感じる。

社会に出た後も継続的なケアは必要


所長の高橋亜美さん

ゆずりは所長の高橋亜美さんは、もともとは法人が運営する自立援助ホーム「あすなろ荘」で9年間、スタッフとして働いていた。

自立援助ホームとは、15歳から22歳の子ども・若者たちが生活する社会的養護の形態のひとつだが、児童養護施設と違って、「働くこと」と「寮費を納めること」が求められる。たいていは、働いて貯金をしながら、自立できるようになると卒寮する。

しかし、社会的養護を受ける子どもたちの多くは、親や親族、親の恋人などから虐待を受けていたり、ネグレクト状態で家庭で適切に育てられてこなかった人たちだ。トラウマや傷つきを抱え、施設や自立援助ホームでサポートを受けながらなんとか生活をしていた人たちが、一人暮らしの状況にポンと投げ出されると、急激に状況が悪化することはよくある。

「それまで自分は職員として、『ここにいる間は自分の苦しみや気持ちを大事にしていいよ』と声をかけながら、同時に、『ここを出たら一人でやっていかなきゃならないのだから、今のうちに力をつけないと』と、“自立”を意識した接し方をしてきた。でも結局、ホームを出て、困難な状況に陥ってしまう。その状況を目の当たりにして、私は、彼らが受けてきた深い傷も、親や家族を頼れないハンデも甘く見ていたんだなと思った」と亜美さんは言う。

「何かあった時に相談したり頼れる先があることは、セーフティネットの土台となります。多くの人にとっては家族がその役割を担ってくれる。でも、それがまったくない人に対して、『頑張れ、自立しろ』と言うのは無責任ではないだろうかと。私たちが応援していることを知っているからこそ、彼らは頑張れない自分の姿を見せられない。そうさせてしまっていたのは私たちだと、反省した」


2018年に設立したアフターケア事業全国ネットワーク「えんじゅ」の会議の様子。不安定な運営基盤の所も少なくない

頑張れる子はそのまま頑張ってほしい。でも、頑張れなくたっていいし、もっと言えば、頑張らなくてもいい。そう亜美さんは訴える。

「『頑張れない』の中には、自分ではどうにもできないものを抱えさせられてきた彼らの困難さがある。その視点を持たなければと思いました」

卒寮生たちが困難な状況に陥る姿を何度も目にしてきたことから、社会へ巣立った後もまだまだ支援は必要だと強く感じ、2011年、アフターケア専門の事業所としてゆずりはを開設した。
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文=矢嶋桃子

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