イスラエルで体感した「ロシア製自動運転」の破壊的ポテンシャル

テルアビブ市内を走行中のヤンデックスの自動運転車両と、ドライバーのレオニード・シャベルブ(31)。


「自動運転では高精度なセンサーが重要だ。寒冷地では雪を障害物として誤認しない工夫も必要になる。この分野の競合は、累計走行距離やディスエンゲージメント指数(システムエラーで人間の補助が必要になる比率)を、完成度の指標にするが、じつのところ自動運転の明確なゴールは存在しない。可能な限り多様なコンディションで試験を重ね、完全な自動運転に近づけたい」 

そう語るのはインテルに10年勤め、ヤンデックスで自動運転ビジネス開発部門を率いるアルテム・フォーキン(40)だ。同社がこの技術をまず導入するのは、世界各地に展開する配車サービスの「ヤンデックス・タクシー」になるという。 

11年にロシアや旧ソ連圏で始動したヤンデックス・タクシーは、イスラエルやフィンランド、アフリカのガーナを含む15カ国で約50万台の車両を運行中だ。ウーバーやリフトが損失を出し続ける一方、ヤンデックス・タクシーはすでに黒字化を果たし、昨年はウーバーのロシア事業を買収した。

「テルアビブのドライバーは米国やロシアよりも運転が荒く、道路インフラも米国やロシアと比較すると細い道が多く、複雑だ。自動運転で最大の課題となるのは、人間の行動を予測すること。テルアビブに拠点を広げられた意義は大きい」 

それにしても、17年に始動したヤンデックスの自動運転の開発スピードはあまりにも速い。グーグルの自動運転プロジェクトの開始は09 年と、今から10 年前のことだ。なぜ同社は、急速に技術を磨き上げられたのか──。その問いにフォーキンは「当社にはゼロから技術を積み上げる必要がなかったからだ」と答える。

“グーグルのロシア版”と形容されるヤンデックスは検索から地図、Eコマースやフードデリバリー、音楽配信まで手がけ、その実態はグーグルとアマゾン、ウーバーが一体化したものに近い。

20年以上に及ぶ「機械学習」の知見

「1997年に検索サービスを開始したヤンデックスには、20 年以上にわたるマシンラーニング(機械学習)の知見があり、ビッグデータとレコメンド技術をフル活用して配車サービスも成功させた。リソースをフル活用し、自動運転技術を完成に近づけた 」(フォーキン)

ヤンデックスは現在、ロシアとイスラエルで50台の自動運転車を走らせているが、今年6月にイスラエルで開催されたモビリティのカンファレンス「エコモーション」で、2020年までに100台の自動運転車を世界で走行させると宣言し、テルアビブに専用のR&D拠点を設置すると発表した。

「ロボットタクシーの普及は携帯電話と似たかたちで進む。携帯電話はまず人口の密集する都市部をカバーした。自動運転も標準化が進んだ都市部から始まり、エリアを広げる」とフォーキンは話す。そのプランを実現するうえで、ハイテク人材の宝庫であるイスラエルに拠点を持つ意義は大きい。

現地のモビリティ分野のスタートアップには、17年にインテルが153億ドル(約1兆6000億円)を投じて買収した「モービルアイ」や、グーグルが買収した乗り換えアプリの「ウェイズ」、センサー技術の「イノビズ」などがある。
 
さらに、自動運転分野の企業にとって魅力的なのは、この国がテクノロジー企業に示す「柔軟な法的スタンス」だ。イスラエルは米国以外で唯一、海外企業に公道上の自動運転テストを許可しており、BMWも年内に現地で自動運転試験を開始する計画がある。

イスラエルが「実験場」を提供する理由

しかし、海外企業に道路を“実験場”として開放するイスラエル政府の意図はどこにあるのだろう。
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取材・文=上田裕資 写真=Jonathan Bloom

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