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2019.09.26

「有田みかん」はなぜ、年商10億円を生む「奇跡の果実」になったのか


「有田みかん」の美味しさが圧倒的な強み

スケールメリットが得られない果樹の栽培生産、そしてあくまで「有田みかん」に特化した加工販売──。「農業で儲けよう」と考えれば、畜産や穀物栽培、ハウス栽培など、効率性を高められる作物を選び、天候不良によるリスクを分散するためには、複数作物を取り扱ったほうがいいだろう。なぜ、早和果樹園は、「有田みかん」にこだわるのか。俊伸氏はこう語る。

「そもそもウチは、『有田という場所でみかんを作っている』というのが圧倒的な強みなんですよ。他の地域やったら、複合栽培するんでしょうけど、有田は急勾配で、水はけが良くて、雨も少ないから、他のものが育たない。みかんしか育たないんです。でも、育ったみかんはむちゃくちゃ美味しい。他の地域の農家さんも『有田みかんには絶対かなわない』って言うんです」

「どんなにみかんの生産量が落ちても、有田だけで8万トン作ってる。日本のみかんの約1割をこの有田で育てているんです。そんな地域はめったにありません。だからこそ、有田みかんを作ってる農家さんをなんとか守らなければならないんです」



そこで早和果樹園が取り組んだのが、自社栽培のみならず、周辺の各農家からのみかんを高値で買い付け加工品にすることだった。「表面に傷があるような規格外のみかんは市場に出回らず、地域の業者があり得ないほど安く買い叩く。でも味は間違いなく美味しいんです。だから我々は『絶対にそういうことはしない』と、ちゃんと値付けして、農家の皆さんにお支払いするようにしました。そうすればうちだけではなく、有田のみかん農家全体が潤う。だから、みんなが“応援団”になってくれてるんです」

そして、俊伸氏が思い描くのは、早和果樹園だけではない、地元農家も含めて「チーム有田」として有田みかんを成長させ、国内はもちろん海外へも届けることだ。

「みかんづくりにも自負はあるんですけど、完熟早生みかんゆえにそもそも輸出が難しいなど、できることにも限りがある。『農業を伸ばしたれ』という感覚だけではアカンと思うのです。新卒の若い社員も入ってきてくれていますし、加工なら年間を通して安定的に販売することができる。いまや、加工部門が当社の売上の8割を占めます。最近では香港や台湾を中心に、試食販売を行なってるんですけど、やっと『みかん』が認知されてきたかどうか、というところ。『おいしい! これってマンゴー?』『No, no, Japanese Mikan!』って(笑)。これがもっと浸透していったらいいなと思いますし、まだまだ国内でも勝負できる。日本に『みかん嫌い』な人なんていないじゃないですか。それが本当にありがたいですね」


秋竹俊伸(あきたけ・としのぶ)◎株式会社早和果樹園 代表取締役社長
1975年、和歌山県生まれ。県立耐久高校卒業後、静岡でみかん農法について学び、1996年に入社。2019年から現職。同社は生産から加工、販売まで一貫して行う6次産業で、「みかん1個の価値を高める」ことをビジョンと掲げる。経済産業省主催、2019年度「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定されるなど、業界にとどまらず次世代の農業法人のあり方として注目を集めている。

取材・文=大矢幸世(+YOSCA)、企画・編集=FIREBUG

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