社員の悩みが開発のきっかけに
そんな折、会議中にひとりの社員が「夏の満員電車で、自分の体臭が気になる」と悩みを吐露した。「ちょうどスメハラが話題になっていた時期で、面白いね、ということでネットで調べましたが臭いを可視化する製品はなかった。クチのニオイや体臭は誰もが気になり、かつ他人が指摘しづらい。解決されていない課題なので挑戦することにしました」(波木井)。
臭いの可視化という斬新なアイデアは決まったものの、問題はそれを支える技術がないことだった。しかし、当時大阪工業大学の大松繁との出会いが同プロジェクトを前進させることになった。
BICの社員が大松がイノベーション・ジャパン(大学見本市)でコーヒーやワインの香りを産地ごとに嗅ぎ分ける技術を展示したのを目にした。そして同技術を応用した体臭の嗅ぎ分けの共同開発を行うことになった。オープンイノベーションの典型的な事例だ。こうして2年の歳月をかけデバイスを開発し、2017年にKunkun bodyの販売を開始した。
2年で世に出すのも大手企業ではなかなか見られないスピード感だ。「大企業では、製品を市場に出すのに10年、下手をすると20年かかってしまうが、我々の意識は、スタートアップ的です。着想からソフトウェアのみのサービスは1年、ハードウェアを含むプロダクトは2年ほどで市場に出し、お客さんの声を聞きながら改良していく方法を取っています」(波木井)。
今回の生活習慣臭プロジェクトでは、アシックス直営のランニングステーションでKunkun bodyのトライアル機を設置し、運動に取り組むキッカケと習慣化までをサポートする取り組みやFiNC Technologiesと女性をターゲットにライフスタイルの見直しから生活習慣臭の対策を共同提案する取り組み、さらに第一三共ヘルスケアと同社の口臭予防製品「ブレスラボ」を活用した生活習慣臭の適切な対策といったオープンコラボレーションを実施することも明らかにした。
段階的に臭いの可視化に取り組んできた同プロジェクトだが、体臭やクチのニオイで終わるつもりはない。「がんには特有の臭いがあります。また食品も腐ると特定のガスを発生する。まずは生活習慣臭からスタートし、今後は病気の早期発見や食品ロスなど社会課題の解決に貢献したい。またビジネスの面から見ても生活習慣臭だけでは売上に限界がありますが、ドメインを広げることで何百倍にもなる可能性がある」と波木井は語った。