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──引退後を現実的に考えるようになるのは、どのタイミングなのでしょうか。

奥村 プロ野球選手になって4年目の夏に、自分に対する周囲の対応が変わったのを感じました。球団は夏くらいから次のシーズンの編成を考えます。それまでなら怒られていたことでも、その頃から何も言われなくなった。いつもなら投げる場面で、後輩が投げるようになった。そろそろまずいなという空気があったんです。

その雰囲気を覆そうという思いと、クビになったらどうしようかなという不安。それでも突き詰めて考えることはなくて、実際に戦力外と言われて考えざるを得ない状況になりました。

──戦力外通告を受けた後、そのあとのキャリアをどう考えましたか?

奥村 野球しかしてきていませんから、そもそも自分に何ができるのか、何がしたいのか、世の中にどんな仕事があるのか、何も知らないに等しいんです。だから選択肢が乏しい。

戦力外通告が解禁になるのが10月1日。プロの契約は2月から11月までで、12月までは分割で給料がもらえます。12月半ばまでには住むところも決めなくてはいけない。情報不足の上に、短期間で選択を迫られることが、選手のキャリアをより狭めてしまうんですね。

スポーツ選手への先入観を正していきたい

──引退後の選手たちは、どのような進路を選ぶことが多いのでしょうか。

奥村 野球以外の選択肢としては、やはり飲食業が多いですね。現役時代によく出入りするので仕事のイメージが持ちやすい業界だからです。僕もそうでした。

ただ、最近は一般企業に就職する選手が増えるなど、引退後の進路に多様性が生まれてきています。2017年には20人弱が一般企業に就職しています。僕が引退した当時に比べて、選手の引退後のキャリアに対する関心は高まっています。選手のキャリアを支援する取り組みについて、取材していただけることもその一例でしょう。選手会による支援も、当時と比べれば充実してきていますね。

──スポーツ選手=体育会系=営業職のイメージもありますが。

奥村 実際にプロ野球選手に対しては、営業職の募集が多いですね。業界で見ると、不動産、不動産投資販売、保険営業、サービス系の営業が多い。でも、僕はもっといろんな選択肢があるのではないかと思うんです。

スポーツ選手って、体育会系で根性があって、明るく社交的で営業向きと思われがちですが、いろんな人がいるんです。野球界で言えば、投手と野手でも全然違う。その投手でも中継ぎ、先発で考え方は全く異なります。

人前に出るのが好きな人もいれば、人前で話すのが得意じゃない人もいる。文章や絵を描くのがうまい、データ分析が得意といった選手だっているんです。いろんな人たちがいるのに、スポーツ選手への先入観は根強くあるし、選手自身もそう思い込みがち。それが問題だと感じますね。

──奥村さんはスポーツ選手から公認会計士に転身していますが、アスリートとしての経験はビジネスでどう生きるのでしょうか。


奥村 野球しかやってきていないから、野球しかできないという発想はもったいない。時速何キロのボールを投げるというのは話のネタにはなるけど、ビジネスに生かされるのはそこではありません。そこにいたるまでの取り組み方とか、考え方が、ビジネスにはすごく役に立つ能力だと思う。

僕は、そこを啓蒙し、世の中にまだ認識されていない、引退後のスポーツ選手の価値向上を図っていきたいなと思っています。

***

奥村は現在、公認会計士しての本業に加えて、自身の現役時代の経験も生かし、スポーツ選手のセカンドキャリア支援に取り組んでいる。講演やセミナーを通して啓蒙活動をしているほか、大学や資格試験予備校などと連携することで、選手たちの引退後のキャリア支援を展開している。

取材・文=Forbes JAPAN編集部 写真=山﨑裕一

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