分断の焼け野原に新たなコモンセンスは生まれ得るか? 「表現の不自由展・その後」の騒動に寄せて

「表現の不自由展・その後」展に展示された「平和の少女像」(筆者撮影)

2019年7月31日午前10時過ぎ、ぼくは愛知芸術文化センターにいました。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の出展作家の1人として、内覧会に訪れた方々とコミュニケーションをするためです。

何かが起きていることに気づいたのは、内覧会終了ぎりぎりの16時半頃でした。ぼくは、その「何か」を自分の目で確かめようと、急いでエスカレーターを駆け下りました。それこそが、ごく一部の関係者を除いて極秘裏に準備が進められていた企画展「表現の不自由展・その後」(以降、当該企画展)でした。

内覧会終了間際の当該企画展会場に入り、一連の作品を観ました。同時に、その日の午前中の記者会見で芸術監督の津田大介氏が「伝説を作る」と話していたのはこのことだったのか、と思いました。

8月1日に正式公開となった「あいちトリエンナーレ2019」の当該企画展開催の事実やその内容は、SNSや報道を通じて一気に拡散されることになりました。その騒ぎは批判、非難、脅迫、偽情報などを次々と誘発しながら、次第に大きな事件となっていきました。結果として、当該企画展は3日で中止に追い込まれました。

津田氏は会見で、元従軍慰安婦や昭和天皇などをモチーフにしたとされる作品の展示をめぐって事務局に抗議が殺到したことを中止の理由に挙げました。

河村たかし名古屋市長も「日本人の、国民の心を踏みにじるもの」と批判し、開催経費の市負担分の一部を支払わないと示唆しました。

菅義偉官房長官は、8月5日の記者会見において「あいちトリエンナーレ2019は、文化庁の補助事業として採択されていますが、審査時点では具体の展示内容の記載はなかった。今後の取り扱いについては、文化庁において事実関係を確認した上で適切に対応する」と語りました。

ぼくはこの芸術祭に「dividual inc.」という名義で早稲田大学准教授のドミニク・チェンとの共同制作で「LastWords/TypeTrace」(#10分遺言)という作品を出品しています。久しぶりに参加した芸術祭がこのような事態に至るとは思いもしませんでしたが、期せずして当事者の一部となったことで、多くのことを考えるきっかけを得ることができました。

悲劇と喜劇がひっくりかえってしまったような今回の一連の騒動から、ぼくたちは何を学ぶことが出来るのか。それはおそらく、左翼と右翼、反日と愛国、弱者と強者、少数派と多数派といった凡庸な二項対立を超えたところに、新たなコモンセンスを生み出すことの可能性について考えることなのではないかと思います。


「LastWords/TypeTrace」(#10分遺言) 撮影:ドミニク・チェン
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文=遠藤拓己

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