アジアのベスト女性シェフが考える「仕事としての料理」

タイ・バンコクのレストラン「ガー」を率いるインド人シェフのガリマ・アローラ(左)

アジアNo.1レストランに4度輝いたタイ・バンコクの「ガガン」。その向かいにあるのが、ガリマ・アローラ率いる姉妹店の「ガー」だ。どちらも白亜の建物が美しいレストランだ。

ガリマ・アローラは、笑顔を絶やさず、語り口も穏やか。まだ33歳という若さながら、人をほっとさせる雰囲気はとともに、しっかりと強い芯を持っている。それはどこに由来するのだろうか。

ガリマは、今年のアジアのベストレストラン50で、ベスト女性シェフとして表彰された。「女性であるから表彰されるのは差別に当たる」と、なかには、それをボイコットすべきだと考える人たちもいる。しかし彼女は、「自分が発信する機会をもらった」と、この名誉を前向きに捉えている。


ガーで提供されている料理(Grilled milk and beef served with mixed herbs and yeast aquafaba)

シェフは「ロックスターで科学者」

インドのムンバイ出身のガリマは、もともとはジャーナリストをしていた。子供の頃から、父親と料理をして食べるのが大好きだったことから、最終的に料理の道を選んだという。しかし、それも生易しい選択ではなかった。

「まずこの仕事は、シェフでいること自体が難しい。そして、女性であることは、それをさらに難しくする。この業界で働くと決めれば、多くのものを犠牲にしなくてはならないからです。例えば、それは家族であり、愛する人との時間であったりします」

6月25日に、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで行われた世界のベストレストラン50の授賞式。そのメインスポンサーであるイタリア産ミネラルウォーター「サン・ペレグリノ」の関連イベントで、ガリマは「食の未来」をテーマにした対談に登壇した。ステージ上で彼女は、成功する秘訣として「頭を下げ、目の前に集中して、必死に働くこと」と答えた。

インドでは、シェフや料理業界で働く人々を取り巻く環境はどうなっているのだろう。

「長年、料理はホワイトカラーの仕事ではありませんでした。私の家族は、料理人よりも医者やエンジニアになることを期待していました。でも、ここ10年から15年ほどで状況は変わってきています。シェフはロックスターであり、科学者でもあると認識されてきたのです」

実際に、ガリマは、20歳でジャーナリストとして半年間働いた後、料理への情熱を抑えきれずにフランスのパリに渡ることを決意する。

「父のところに行って、料理を学びに行きたいと言ったのです」。パリに行く許可を得るためではない。「許可ではなく、お金をください、と言ったわ」と彼女は笑う。

自分の人生は自分で決めるというガリマにとって、「許可を得る」という考え自体がなかったのだ。

美味しい料理を心から愛する父親は、「シェフになりたい」という娘の夢を真剣に聞いた……というよりも、いずれ娘が自分の元へと帰ってきて、また一緒に料理をすれば、もっと美味しいものが食べられると期待して、パリ行きを許したのだ。
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写真・文=仲山今日子

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