寄付発展途上国・日本。世界と比べ、総寄付額が少ないことをご存知だろうか。たとえば名目GDP比で見ると韓国の数分の一だという。しかしながら、正直なところ疑問に思う。本当に日本人は寄付への意識が他国と比較して低いのであろうか。チャリティー番組、チャリティーイベントやコンサートなどがあり、さらに駅周辺や繁華街で募金活動をしている団体をよく見かける。自然災害時にも寄付が集まる。決して意識が低いとは言い切れないように感じる。それでも世界的に少なく、寄付発展途上国なのである。なぜなのか。ずっと不思議でしかなかった。そんなときに耳に入ってきた一つの仮説がある。「個人が気軽に寄付できる環境がないから」と。
いま、ヤフーが、寄付文化の醸成に乗り出している。「なぜヤフーが」と首をかしげる方もいるだろう。同社はYahoo!ネット募金というサービスを15年も続けており、寄付金の総額は53億円を超え、延べ900万人(件)が参加している。
「課題解決エンジン」をミッションに掲げる同社は、お金は最も拡張性、柔軟性の高い課題解決資源とし、プラットフォーマーとして、課題解決者であるNPO等と課題解決を望む寄付者とのマッチングを重視。利益を目指すサービスではなく、社会貢献サービスとして、ゆえに業績が悪い時でもサービスを継続し続けてきた。
さる9月26日、新宿に現れた超・巨大な募金箱。53億円分の500円玉が入る大きさだという。Yahoo!ネット募金は15年間でこれだけの「応援」を形にしてきた。街ゆく人に自らのポテンシャルを感じ取ってもらい、つぎの15年へ向けての力強いアピールとなった。会場には、実際に行われているプロジェクトのいくつかが展示されていた。現時点で集まっている寄付総額で大きさが違うのは視覚に訴える分かりやすい訴求だ。箱面にはQRコードがあり、Yahoo! JAPAN IDがあればその場で寄付が可能。行動を起こしやすい仕掛けになっていた。これまで表だってアピールしてこなかったのは、“社会貢献は陰徳であったほうがよい”と考えていたからである。陰徳、つまり、寄付という行為は謙虚であるべきとの風潮がある日本においては、募金に関するサービスの成果をあからさまに宣伝するべきではない、プレスリリースで社会に対して報告する程度で、慎ましく運営していくスタンスだったのだ。
しかし、15周年を機に方針を変えた。陰徳ではなくオープンにYahoo!ネット募金の存在を世の中に伝えていく。なぜだろうか。Yahoo!ネット募金を管掌する、執行役員 SR推進統括本部長 西田修一に聞いた。
「ポテンシャルがある、その一言に尽きます。日本人の寄付に対する意識は世界と比べて低い水準とは言われますが、それは一面を表しているに過ぎない。例えば、2011年の東日本大震災では13億円、2016年の熊本地震では7億円がYahoo!ネット募金を通じて短期間で集まりました。また、大災害はインパクトがあるために寄付が集まりやすい傾向にありますが、これまで寄付を集めるのに多少時間を要したカテゴリー、たとえば難病の原因解明や治療方法の研究といった長期的な課題に対しても、最近ではコンスタントに寄付が集まるようになってきました。山中伸弥所長率いる京都大学iPS細胞研究所の研究環境を整えるための募金は33万人以上の方から1億円を超える寄付金が集まっています(2019年9月17日現在)」
西田は、日本人の寄付への意識、時流が変わってきたことを敏感に察知した。
「地震や台風などの自然災害などへの寄付を募ることはもちろんですが、山中先生の事例のように、長期的な課題があること、それに対して寄付が持つ力、可能になることを多くの方に知っていただければ、これまで光が当たらなかったカテゴリーについてもより多くの募金が集まるのではないか、そのために、Yahoo!ネット募金にできるのは、陰徳よりも〈発信型〉のスタンスにチェンジすることではないだろうか、そういうステージに来たのではないか、そう考えました」
15年間続けてきたからこそわかったことかもしれない。西田、そしてYahoo!ネット募金チームだからこそ肌で感じた日本人の寄付へのポテンシャル。エンジニアやデザイナーも含め15名弱と、同じようなサービスを提供している他社と比べて小柄なチームである。ただ、小さいながらも社会貢献への意識が高いメンバーが集まっており、ひとたび災害が発生すると休日・深夜を問わず自ら手を挙げて緊急業務に就くという。
15周年を一つの区切りとして、さらに15年、メンバー全員が心あらたに「個人が気軽に寄付できる仕組みを作ること、それにより日本に寄付文化を醸成すること」にチャレンジするという。もちろん、ヤフーらしくヤフーだからできる手法で。
寄付が活きる仕組みを実践する少し話が逸れるが、ビジネスパーソンに熱い支持のある、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン氏が提唱した「イノベーションのジレンマ」という説がある。企業がイノベーションを起こせないジレンマがある3つの理由を述べたものだ。これにならい、仮に、個人が寄付に対するモチベーションのジレンマが3つあるとしたらどうなるであろうか──、そんな枠組みでYahoo!ネット募金の今後の取り組みを稚拙ながらも整理してみたい。
1:検索・マッチング性
『個人は、社会課題に敏感で熱意を持っていても、課題自体を知ることができなければ何も行動できない』
Yahoo!ネット募金チームでは、募金サイトのインターフェイス改善に取り組んでいる。災害や社会問題が多様化するにつれて課題が増加しているが、現在11ある社会課題のカテゴリーを課題の増加にあわせて増やし過ぎると逆に寄付先を選びにくくなるため、寄付をしたい方々が、情報を得やすいように、ヤフーらしく検索性やリコメンド等のインターネット・テクノロジーを活用したシステム開発を優先している。
2:共感性
『個人は、出会った課題に対し、その課題の状況や社会的背景を理解できなければ共感はできず、次のアクションへは進めないと予想される』
Yahoo!ネット募金チームでは、“動画”の解説力・訴求力を重視。同社の別サービスとも連携し、課題ごとに要点をまとめたショートムービーを作成していく仕組みを構築する。現在テスト中で、パイロット版で検証中だ。
3:一貫性
『個人は、貢献したい社会課題に直面しても、どう支援、寄付したらよいかわからずに、アクションできないケースが多いと予想される』
Yahoo!ネット募金チームでは、社会課題に出会い「なんとかしたい」と思われた方をストレートにアクションできるように、芽生えた寄付の意識をストレスなくYahoo!ネット募金へとつなぎ、ユーザーの「なんとかしたい」との想いをしっかりと課題解決者につないでいけるよう、一貫したフローを作成する。
西田に聞くYahoo!ネット募金の、つぎの15年「この15年、Yahoo!ネット募金は寄付というカテゴリーの中で一定の役割を果たせたと思っています。繰り返しますが、同時にポテンシャルがまだまだあることも実感できました。次の15年は寄付文化をいかに社会に根付かせることができるか、これが私たちの次の大きな目標でありミッションだと考えています。『寄付はもっと気軽にできカジュアルなものなんだよ』と社会に対して広く発信していきたいと考えております。
そして、これは当社だけでなく、社会課題を解決するために、クラウドファンディングやソーシャルビジネス、社会福祉活動などに取り組まれている方々と一緒に、社会貢献というカテゴリーを伸ばして行きたいとも願っています」
陰徳のサービスからオープン化、告知化へと大きく舵を切ったYahoo!ネット募金。これまでより多くの想いが集まることは明白である。「課題解決エンジン」を提供するプラットフォーマーとして、それらを適切にマッチングすべく、新たな15年が始まる。
Yahoo!ネット募金15周年特設サイトhttps://docs-donation.yahoo.co.jp/report/15th/index.html