長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣についてドリームインキュベータの小縣拓馬が聞いた。(全6話)※本記事は2017年8月に実施したインタビュー内容を基に作成しております。
強さの裏には必ず弱さあり
──日本のベンチャーだからこそ戦うべきフィールドや業界、地域などはありますか? 今、世界はグーグル、フェイスブック、アマゾンといった欧米系に席巻されていますし、ここからどうやって逆転できるのかなと。
これはもう経営戦略論的に、出遅れてしまったときの定石として、「ネクストジェネレーション」を狙うべきだと思います。
今強い企業っていうのは、数年前の技術体系の中で優れたものを作ったので強いんですよね。その強さは弱さと表裏一体なんです。強さゆえの弱さを持っています。
20世紀型ハードウェアづくりにおいて素晴らしければ素晴らしいほど、21世紀のナレッジ型の産業では上手くいかなくなった、というのも強さゆえの弱さの代表例です。
──確かに。歴史はそれを証明しています。
だからこそ、グーグルにも究極的に強くなったゆえの弱さがあるはずなんです。
例えば、今はIoT(モノのインターネット。さまざまなモノをインターネットに接続し、制御する仕組み)が話題になってますけど、そこでよく言われているのは「クラウドは自動運転するためには遠すぎる」という話です。
自動運転の場合、レスポンスに0.5秒かかったら、事故で人が死んでしまいますよね。なのでクラウドではなく、今のテクノロジーをもっとローカル処理できなきゃダメなんです。
そう考えると、クラウドの覇者がIoTの覇者になれるかというと、そこはかなりクエスチョンマークだとも考えられますよね。エンタメや音楽、メールならクラウドで良いかも知れないけれど、人の命を預かるようなものはクラウドには任せられない。
であるとするならば、徹底的に自動運転にチューニングしたようなシステムに勝機がある可能性があるわけです。こういう見方をすることで、一見隙が無いように見える相手でも、勝機を見出すことができます。