ブロックチェーンで「正義」が保証される世界をつくる──イーサリアム財団トップ女性の哲学とは

イーサリアム財団エグゼクティブ・ディレクターの宮口礼子


──宮口さんが最もわくわくするのはどんなときですか?

社会を変える力を持つプロジェクトに取り組む人たちが、たとえば金銭面で困っているとき、それをサポートすること。そのプロジェクトに参加することはできなくても、金銭面やプロジェクトを広げるなどのサポートはできます。それができると感じられるとき、わくわくしますね。その結果、「ありがとう」と言われることが、私の原動力になっています。

その原体験は教師時代にあります。教師は「先生のおかげで人生が変わりました!」と言われる機会の多い職業です。仕事において、誰かの人生を変えていると実感できることはなかなかありません。もちろん、みなさん間接的に変えていると思いますが、直接感じられることは少ないはず。そういう意味で、教師はすごく贅沢というか、恵まれた職業だったなと思います。

──では、最近わくわくしていることは何ですか?

ユニセフの人たちと一緒に仕事をし始めたことです。ユニセフのような歴史ある組織を中から変えるのはすごく大変だと思いますが、それに挑戦しているチームと出会ったんです。

私たちは技術とコミュニティを、ユニセフは世界130カ国にオフィスとスタッフを持っている。一緒にプロジェクトをやったらすごいことができる気がして、わくわくしながら話し合っています。実際に今、いくつか話も進んでいます。

彼らは私が大事にしている正義感を理解してくれています。肩書きが付くと、なかなか個人として見てもらえなくなるんですが、彼らはイーサリアムのディレクターとしてではなく、私個人を見て「一緒にやりたい」と言ってくれて、それは本当に嬉しかったですね。



──宮口さんが「来てほしい」と考える「面白い未来」とはどんなものですか?

すごくシンプルにいうと「世の中に笑顔が増えてほしい」と思っています。東京の人は、そんなにお金に困っていないはずなのに、通勤電車に乗る人を見てみると笑っていませんよね。むしろアフリカの貧困層の子どもたちのほうが笑顔です。笑顔になれるかどうかは、お金の問題ではないんです。

笑顔が大事だと思うようになったのは、祖母の葬儀がきっかけでした。祖母は晩年施設に入っていたので、施設のスタッフさんたちが参列してくれたんです。これは非常に珍しいことだそうで、祖母はすごく慕われていたんですね。

話を聞いてみると、年配の方はだんだん身体が悪くなるにつれて、不機嫌になっていくのが普通なのに、祖母は最後まで笑顔でいたそうなんです。

その話を聞いて思い出したのが、母から「あなたは誰よりもいつも笑顔な赤ちゃんだったんだよ」と言われてきたことでした。最近はちょっと難しい顔をしてしまうことも多いんですが、笑顔って本当に大事だなと思うんです。

どんなに周りが良いと言っても、キャリア的に素晴らしそうに見えても、私のプライオリティは笑顔でいることなので、笑っていられなくなったら、仕事を辞めようと思っているくらい(笑)。

イーサリアムの規模はどんどん拡大していますが、みんなが笑顔になれる世の中にできないなら、できるように考えていきたいですね。


みやぐちあやこ◎南山大学を卒業、高校教師を務めた後、米サンフランシスコ州立大でMBA取得。2012年に開発途上国の子どもを支援する「TABLE FOR TWO」に勤務。その後、米国の仮想通貨取引所「Kraken(クラケン)」在籍時の2014年に「Mt.Gox(マウントゴックス)」の破産手続き支援を行う。2014年設立の日本価値記録事業者協会(JADA)の創設メンバーの一人。2018年2月、ビットコインに次ぐ時価総額世界2位の暗号通貨であり、ブロックチェーン技術を用いたプラットフォームである「イーサリアム」を支える、イーサリアム財団に参画。そのエグゼクティブ・ディレクターとして、組織自体をブロックチェーン的な「自律分散型」にすべく、模索を続けている。2019年にWorld Economic Forumグローバルブロックチェーン評議会委員に任命。

インタビュー=谷本有香 構成・文=筒井智子 写真=小田駿一

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