装幀・デザインの現場から見える風景

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ここ10年ほどのあいだに、電車やバスの中の風景はすっかり変化した。かつてのように新聞をはじめ、本や漫画などの紙媒体を手にしている人はめっきり少なくなった。かわりに多くの人はスマートフォンやタブレットに目を落としている。

なかには、アプリを通して「本」を読んでいる人もいることだろう。しかし、車内で私が自然と目で追ってしまうのは、適度に重みがあり、何らかの印字が施され、見開くことのできる、従来からの本を携えている人たち、だ。

私はフリーランスのデザイナーで、主に本のデザインをすることを生業としている。電子書籍ではなく、実際に紙をめくる、外見でそれと分かるほうの「本」である。

本の表紙まわりのデザインを手がける人のことを、装幀(装丁)家と呼ぶが、表紙など外面だけでなく、本文のレイアウトなどから構造的にアプローチをする人のことを、近年ではブックデザイナーと呼ぶことが多いようだ。つまり、私の生業を肩書きでいうならば、装幀家、あるいは、ブックデザイナーということになる。

ちなみに、『大辞林』の「装幀」という項目には、こう記してある。

「書物を綴じて、表紙・扉・カバー・外箱などをつけ、意匠を加えて本としての体裁を飾り整えること。また、その意匠。装本」

私がこの言葉に出合ったのは、遡ること10数年前、いまはなきアメーバブックスという出版社で働いていたときのことだった。当時20代の私は、サイバーエージェントの子会社として設立されたこの会社にウェブ・デザイナーとして在籍し、日々目まぐるしく変わっていく環境のなかで業務に勤しんでいた。

Web2.0前夜

ベンチャー出版社であったアメーバブックスは、ほかのいくつものグループ会社とフロアをシェアし肩を寄せ合っていた。あるシマで歓声があがったと思ったら、翌週には突然ほかのシマが消えていた──そんな日常だった。

そこに集まっている人たちは、旧来の会社員の感じとはどことなく違い、適度にラフでスマート、未来を見据えるその目は揺らぎなく、少しギラついているように感じられた。

文・画像=長井究衡

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