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2019.09.21 11:00

リニューアルで来場者3倍。新潟の山奥にできた「アート」制作秘話


2016年冬、馬岩松氏と早野氏は初めて清津峡を訪れると、「パノラマステーションから見た景色の美しさに感動した」という。

しかし、「とてもポテンシャルがある場所だと感じたが、展示物での説明調で壮大さや魅力が伝えきれていなかった。アートの力を活用して五感に訴えればより多くの人たちにこの魅力を体感してもらえると思った」と早野氏は振り返る。

清津峡を「体感」できる空間に

清津峡の作品「Tunnel of Light」は、終点のパノラマステーションにあるのではなく、足湯のあるエントランス施設から、パノラマステーションまで清津峡渓谷トンネル内のすべてを含めてひとつの作品となっている。これは、MAD Architectsからの提案だった。

そのハイライトとも言うべき終点のパノラマステーションでは、清津峡の広大な自然を存分に感じられる仕掛けにこだわった。

床一面に水をはり、季節ごとに変わる渓谷の美しさをトンネル内部に描写。さらに、水面への描写が反射して「円」が描かれるように、トンネル内部には半鏡面仕上げのステンレススチールを貼り付けた。パノラマステーションは、冷たい水に足をつけないと先に進めない設計になっているため、視覚はもちろん、触覚にも刺激が走る。


トンネル上部には、半鏡面仕上げのステンレススチールを一面に貼っている(Photo by MAD Architects)

この土地の魅力を残したまま、価値をどう増幅できるか

トイレやエントランスの休憩所でも一貫して清津峡を感じることができる。

エントランス休憩所の2階に設置された足湯では、見上げると丸く開いた潜望鏡から自然の景色が望める。トイレも、メタル状のフォルムで覆われて、トイレの中からマジックミラー越しに清津峡を伺うことができる。注視しないと気づかない仕掛けと工夫が散りばめられているのだ。


エントランス施設の2階の足湯。湯につかりながら上を見上げると、清津峡を楽しむことができる(Photo by Nacasa & Partners Inc.)

「建築家として、地域の記憶・歴史を感じ、理解することは非常に大切な設計プロセスである。新しく斬新な空間を提案することより、その土地の魅力をできる限り残し、アートを通じてどう価値を増幅させて、体験を提供できるかを追求した」と早野氏は語る。

今回の取り組みに対しては、地元の一部から反対の意見もあった。しかし、定期的に説明会や会議を重ねて丁寧に向き合い、地元の人々や清津峡への尊敬の意を忘れずに、その魅力を伝える手段を模索したという。
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文=内田有映 取材協力=早野洋介、樋口正彰、山口朋子

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