印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」のテレビCM事業が好調だ。同サービスを利用した企業のひとつ、ネット宅配クリーニングサービス「リネット」を提供するホワイトプラスは、その効果をどう実感しているのだろうか?
スマホで予約すると、自宅でクリーニングの受け渡しができる。共働きや子育て世帯を中心に支持されているネット宅配クリーニングだが、そのパイオニア的な存在なのがホワイトプラスが提供する「リネット」だ。2009年のサービス開始から地道に認知を広げつつ事業を進めてきたが、19年に入り、急激に業績を伸ばしている。
そのきっかけになったのが、テレビCMの放映だ。同社はラクスルのテレビCM制作・放映サービスを活用した。
ホワイトプラスの井下孝之社長は言う。
「新しいサービスですから、まずは知っていただくことが大事です。とはいえ、今までにないものだけに伝え方が難しい。それまではデジタル・マーケティングでPDCAを回しながら事業を進めていました。が、認知拡大を一段進めて、成長速度を上げたいと考えたとき、手段としてテレビCMが有効なのではないかと思いました」
そこで、CMを流しているさまざまな企業にヒアリングを実施。いずれもその効果は実感していたが、多くは料金が高く、しかも効果検証が難しいという問題も浮き彫りになった。そんな中、ラクスルのCMに対するスタンスに大きく共感した。
「効果がすぐに検証でき、しかも少額であるというCM制作は、ほかにはありませんでした。CMで『何をどのように見せるか』は大事です。ただ、それ以上に、そのプロダクトがどういう価値を持つかを訴求することが重要で、ラクスルとは、そこから話し合えたことが良かったです」(同)
テレビCMの放映は19年1月から関東エリアでスタートし、次いで同エリアにて3月から6月まで続けた。
「1月の放映では、セッション数は想定した通りに上がりましたが、注文にはつながりませんでした。CMを見た人たちが検索してサイトに来てくれたものの、興味を持ってサイトに来る瞬間と、クリーニングを注文するタイミングが違いました。そこで、例えばCM放映に合わせてサイト内でキャンペーンを実施したり、放映後に継続してデジタル広告を打ったりと、初回の結果をもとに、CM放映後の導線にチューニングをかけたのです」(同)
ラクスルのテレビCMサービスは、効果がリアルタイムで把握できる。それを受けてすぐに対応策をとったため、2回目のCM放映からはCMの視聴→検索→訪問→注文、という流れができ、さらなる効果が実感できた。CM放映前と比べると、注文件数は数倍に増えたという。
クリーニングに行くのは「大変」か「時間がない」かラクスルのテレビCMサービスのもうひとつの特徴は、ABテストの実施だ。表現の違う2つのCMを制作し、効果の違いを測る。「リネット」のCMでは、「クリーニングに行くのって大変」「クリーニングに行く時間がない」という2つのメッセージで効果を比較した。
結果、セッション数が多かったのは前者だった。2つのメッセージは一見似通っているが、視聴者の反応の差は一目瞭然だったという。ユーザーが感じる課題感は、時間の節約ということ以上に、労力や手間にあったということになる。以後、CMは「行くのは大変」というメッセージを打ち出したバージョンを放映することにした。
このように広告表現、あるいは放映する番組、時間帯、放送コストあたりのセッション数など、リアルタイムデータをもとに、最適解を求めて細かいチューニングを繰り返せたことが、成功の大きな鍵だろう。
「普通のCMであれば、データが出て効果が判明するまでに2カ月ぐらいかかるはずです。でも、ラクスルのCMサービスだと、放映されたその日にデータが取れ、すぐに次のアクションを検討することができる。それが最大のメリットでしょう」(同)
マーケティング手法についての関心がデジタルへと移行し集中する中で、テレビCMは古い手段と見なされる節もある。
しかし、ラクスルのテレビCMサービス責任者、CMOの田部正樹取締役は言う。
「ラクスルやホワイトプラスなど、新しい事業コンセプトを持つスタートアップは、自分で検索ワードを作らなければなりません。WEBマーケティングだけでは成長が限定的にならざるを得ない。比較されずに選ばれる独自性を自ら強烈に伝えることが必要です。その点でいうと、テレビCMをうまく使うことが、成功の道筋であると言えます。日本の名だたるユニコーン企業の多くがテレビCMを放映していることが、何よりの証拠ではないでしょうか」
ホワイトプラスの投資は今後も続く。
「テレビCMで注文を伸ばせることが実証できたので、今後は認知度60%以上を目標に、テレビCMとデジタル広告に投資を続け、“宅配クリーニングならリネット”という圧倒的な立ち位置を狙っていきます」(井下氏)
さらに成長速度を上げる考えだ。
テレビCMの放映が社員を変えるラクスルは、テレビCMを制作・放映するにあたり、マーケティングと効果測定に重点を置いている。その際、クライアントにはそのノウハウの提供を惜しまない。
「担当者がCMが放映される番組や、放映後の効果などを社内で詳細に報告してくれたため、社員みんながCMの放映をチェックして、『今、会社は勝負に出ているんだ』と実感することができました。その結果、自社のエンジニアが効果を集計するシステムを改善したり、ユーザー対応が改善されたりと、社内で自発的な動きが活発化しました」(井下氏)
自社のCMが組織を強くする。思わぬ効果もあるようだ。
井下孝之◎ホワイトプラス代表取締役社長。2006年に独立を前提にエス・エム・エスに入社。人材紹介コンサル、経営企画、新規事業担当を歴任。起業に向けた勉強会で現経営陣と出会い、09年にホワイトプラスを設立。ネット宅配クリーニングサービスの「リネット」は、会員数が35万人を突破。
田部正樹◎ラクスル取締役CMO/広告事業本部長。大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年にラクスルに入社、16年10月から現職。
ラクスル
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