マッチングアプリの「バンブル(Bumble)」は19年、セリーナと広告契約を結び、スーパーボウル放映時のCMにも起用した。と同時に、セリーナとバンブルはパートナーとして、セリーナとバンブルから出資を受ける女性創業者を選ぶピッチコンテストを主催している。これは優秀な女性起業家と投資家をつなぐだけでなく、女性起業家同志のネットワークの場としても機能している。
「セリーナは人々が互いにつながる場を提供してくれているのです」。天然素材の生理用品ブランド「ローラ(Lola)」の創業者ジョーダナ・キアーはそう語る。
セリーナは今年、ファッションの祭典であるメットガラでホストを務めた。その開幕直前、彼女は出資先である、オーガニック冷凍食品宅配の「デイリー・ハーベスト(Daily Harvest)」が用意した食事をスタッフとともにほおばる姿をインスタグラムのストーリーズに投稿している。
スタートアップの状況を一変させるこうした投資家の“力”は、別のメリットも生み出す。それはディールフローである。成熟したディールの場合、伝統的ベンチャーキャピタルがリターン目標を達成するには、持ち株比率を高くすることが必要になる。だが、セリーナの場合、他の投資家と相乗りすることも厭わない。
オハニアンによると、「ベンチャーキャピタルたちは、セリーナがきわめて価値ある戦略的投資家であることを理解しています。彼女は向こうからやってくる大手VCのディールの中からよいものを選んで投資する。と同時に、彼女からの出資を希望する起業家たちとのディールフローを確保することができる」。
セリーナはすでに34社に出資を行っているが、投資した総額は依然として推計600万ドルに過ぎない。これはシード投資のもうひとつのメリットである。彼女の資産規模からすると、これまでに彼女が行ってきたベンチャー投資のリスクは依然として低い。
また、セリーナ・ベンチャーズによると、現在、ポートフォリオの時価総額は1000万ドル超。これは初期投資額の2倍にのぼる。4月にユニリーバがサプリメントメーカー「オリー(OLLY)」の買収計画を発表しており、セリーナ・ベンチャーズ初のエグジットも近いと見られる。投資先のうち少なくとも5社は時価総額が5倍以上に成長しており、ポートフォリオには「デイリー・ハーベスト」、女性専用コワーキングスペースの「ザ・ウイング(The Wing)」など急成長スタートアップが名を連ねる。
セリーナは言う。
「テニスから急いで引退するつもりはありません。と同時に、私は“長く続くブランド”をつくりたいと思っています。ありふれたものでもなく、時代遅れでもなく、流行に乗ったものでもなく、基本に忠実。私のテニススタイルと同じです」
セリーナ・ウィリアムズ◎1981年、アメリカ生まれ。23回のグランドスラムを制覇。生涯獲得賞金8900万ドルは女性アスリート史上1位。「Serena Ventures」などを通じた積極投資でも知られる。17年結婚、出産。