男性を含めたすべてのアスリートの中でも、彼女の知名度を上回るのはトム・ブレイディとタイガー・ウッズだけだと試算されている。彼女の訴求率はミレニアル世代からブルーカラー、高所得者まで、あらゆる層で平均を上回る。
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20年にわたってスポットライトを浴び続けてきたセリーナは、スターとしての影響力をどう生かすべきかを熟知している。彼女は2時間の試合を終えた後の、サインや写真撮影などのファンサービスに積極的に応じる。だが、それよりも重要なのは、彼女がセリーナ・ベンチャーズで、その影響力をどう生かせばいいのかを見出したことだ。
自らファンドを運営する俳優のアシュトン・カッチャーやミュージシャンのナズなどの成功が起爆剤となり、過去10年間で著名人によるベンチャーキャピタルは大きく拡大した。最近、株式を公開したウーバーとリフトには、多くのミュージシャンのほかに、グウィネス・パルトロウ、ジェイ・Z、オリヴィア・マンといったハリウッドの大スターも出資者に名を連ねており、いずれも膨大な利益を得ている。
だが、夫であるアレクシス・オハニアンはこうした傾向を、全体としては懐疑的に見ている。
「私は多くの場合、創業者に対して、著名人の出資を仰ぐな、とアドバイスします。その例外があるとすれば、それがこうした著名人が“付加価値を生み出してくれる場合”です。しかしほとんどの場合、彼らはこの世界のことをよく知らない。自分のエゴを満たすために投資をしているのだとすると、うまくいくはずがない」
セリーナは、彼女の知名度とブランドが“効く”案件に絞って、資金を投じようとしている。彼女の広告価値は絶大だ。例えば、彼女がナイキのウェアを着た写真を1枚、自身のSNSに投稿すれば、その広告価値は1年で200万ドルにも達する。
そして、セリーナの存在が圧倒的な影響力を発揮するのは、ナイキのような有名企業よりも、創業間もないスタートアップに関わる場合だ。
「彼女からの出資はもちろんのこと、彼女のプラットフォームを通じて、私たちが自らの企業ミッションを伝えることができたのは、これまでに私たちが受けた最大の支援でした」
そう語るのは、カミソリメーカー「ビリー(billie)」の創業者ジョージナ・グーリーだ。ビリーは、「ピンクタックス」(例えば体毛用カミソリをはじめシャンプーやボディソープは、女性向け商品のほうが男性向け商品よりも割高な値段設定がなされている)に挑むべく、自社商品の価格を設定している。