セリーナ・ウィリアムズの純資産は現在、推定2.25億ドル。フォーブスが選ぶ「米国セルフメイド富豪女性」に今年、アスリートとして初めて食い込んだ(80位)。
だが実は、彼女の資産2.25億ドルの大半は、コートでの強烈なバックハンドが生んだものではない。彼女の頭脳とブランドが稼ぎ出したものなのだ。今年4月、セリーナは2014年に立ち上げていた自らのVC「セリーナ・ベンチャーズ」を正式に公開した。同社を通じ、セリーナは過去5年で34社のスタートアップに出資している。
17年12月、第一子の出産を経て力強いカムバックを果たしたことで、彼女はスポーツを超越したカルチャーシンボルとしてひときわ輝きを増した。ナイキやJPモルガンチェースといった企業のスポンサーマネーは引き続き、彼女の懐を潤している。過去1年間の収入は2900万ドル。彼女のキャリアの中でも最高水準だ。
そしていま、彼女はさらなる大きな成功を確信している。アスリートとしてではなく、自らの名前と知名度を効果的に使った、「キャピタリスト」として。
天才テニス・シスターズはコンプトンの路上で生まれた
治安が悪いことで知られるカリフォルニア州コンプトンの路上で、テニス経験のほぼない黒人の父親が、娘ふたりに自己流でテニスを教え始めたのは、80年代後半のことだった。セリーナとビーナスというウィリアムズ姉妹の、伝説的なストーリーの始まりである。ふたりの少女はまたたく間に、白人が支配していたテニス界の頂点に駆け上がる。だがセリーナ曰く、当時の生活は「自動小銃を抱えた危なそうな人たちの姿を見かけたら家に入る時間。銃声が聞こえれば身を伏せなさい、と教えられて育った」。
姉妹は早い段階から才能の片鱗を見せたが、父親は、手厚いエリート養成システムをもつ民間のテニスアカデミーとは距離を置くべきだと考えていた。
こうした父の考え方は、セリーナの生き方に強く影響を与えてきた。「人と異なるやり方でチャンスを掴み、頭角を現していくこと。テニスコートの中でも外でも、父の方法論は私に大きな影響を与えました」。──みんなが右を向くときには左を向け。父は娘たちにそう教えた。
彼女のVC事業会社「セリーナ・ベンチャーズ」が、女性と有色人種によって創業された企業に注目しているのも、この逆張りの教えが影響している。もちろん、その判断に社会的な目的があったことは確かだが、テニス選手としての自らの歩みと同じく、彼女は投資についても、大勢とは一線を画すスタイルを貫いている。
昨年、米国のベンチャーキャピタル投資額のうち、女性が率いるスタートアップへの投資はわずか2.3%だ。男性と女性が共同創業者である企業を含めても、全体の10%に過ぎない。黒人やヒスパニック系が創業者の企業になると、この割合はさらに低くなる。これに対してセリーナの場合、これまでに投資した金額の60%は、女性、もしくは有色人種が率いる企業につぎ込まれている。セリーナは言う。
「メッセージを伝えるのに、これ以上によい方法はあるでしょうか」