1つは史上初のロボットアンパイアである。独立リーグであるアトランティック・リーグ(ALPB)が、MLBと契約を結び、試験プログラムとして、ゲーム時間短縮のために、ロボットアンパイアをこの7月にテスト導入した。
これは、トラックマンと呼ばれるシステムを球場に設置し、ホームベース上に3Dレーダーを飛ばし、このレーダーの枠に入った球をストライクとし、外れたものをボールと判定するというシステムだ。
このシステム自体は観客には見えない。いままで通り、ホームベースの後ろには球審が立っている。球審はポケットにWi-Fiにつながったスマホを入れ、判定システムのコンピュータが、球審に「ストライク」か「ボール」を囁くという仕掛けだ。球審はそれをオウム返しでコールして、派手なジェスチャーを見せればよしという流れになる。
(トラックマンのイヤピースを装着する野球ライター / Getty Images)
MLBでも5年以内に投入
このシステムを導入したALPBの試合は、ユーチューブでも見られるが、選手たちは微妙な判定でも、MLBの試合のように、それを態度や言葉で表現して抗議することはまったくない。そして、確かにゲームの進行は速くなっている。テストしてまだ1年も経ってないというのに、判定の正確性への信頼はとても高い。
ALPBのチームの1つ、ダックスの監督であるウォーリー・バックマンは、このロボットアンパイアは、MLBで5年以内に投入されるだろうと断言し、このテクノロジーを絶賛している。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドも、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答えて、導入を検討していることを明かしている。
ただ、このロボットアンパイアに不満がないというわけではない。ベテランの捕手のなかには、キャッチャーミットの微妙な動作で、ボールでもストライクに見せることで防御力を高めている選手もいる。球審さえ欺くというベテランの捕球術がこれで活かせなくなるという不満を漏らす向きもある。
また、抗議やミスジャッジまでも含めての野球の試合じゃないかと、人間味の感じられない機械化の味気なさを訴える人もいる。確かに動画で見ると、球審は表面的には同じ仕事をしていても、その存在からはオーラが消え、やや緊張感も欠いているようにも見える。
しかし、繰り返すが、判定の正確性については、いまのところ不満は見当たらない。ボストン大学のリスクマネジメントの権威で、金融学部のマーク・ウィリアムス教授の研究によれば、MLBでは年間3万4000球の誤審があるということで、この数字の大きさがテクノロジーの導入を後押ししている。